円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

「そういうことではありません。今日は本当に楽しかったです。仕立て屋さんに、近いうちに寄るようにと言われていたのを、今思い出しまして、仕事をもらえなくなってはいけないので早く行かないと……」
気分を害したわけでないと知り、三人は胸を撫で下ろしたが、まだ告白していないので帰られては困る。
「清、早く」
大吉が背中を押せば、頷いた清が半歩前に出て、文子に真剣な目を向けた。
「文子さん、聞いてください。僕はあなたを好いています。今日誘ったのは、この想いを伝えるためでした。文子さんなら、これから縁談話もたくさんくることでしょう。それを断ってほしいのです。卒業したら、僕があなたを幸せにします。それまで結婚せずに待っていてくれませんか?」
よく言ったと大吉は、心の中で清の勇気を讃え、同時に祈るような思いで文子を見つめる。
清の気持ちに薄々気づいていたのか、文子は驚いてはいなかった。
色白の頬が微かに赤くなり、脈があると期待したいところだが、眉尻が下がって明らかな困り顔である。
「清さん、あの……」と、文子は申し訳なさそうに言う。
「お気持ちとても嬉しいです。でも私は、誰とも結婚するつもりはありません。末の妹はまだ四つ。あの子が大きくなって嫁ぐまでは、私が面倒をみなければならないのです」
母親に退院の目処はなく、自分が家族を養わねばならないからと、文子は清の申し出を断った。
「文子さんの弟妹の生活費も、入院費だって僕の給料から払います」
焦った清がそう言っても、首を横に振られる。
「私のことはどうか諦めてください。きっと重荷になります。清さんに相応しい女性は、他にいるはずです」
文子は深々と頭を下げてから、足早に出ていってしまった。
草履の足音が階段の方へ消えていき、特別室には肩を落とした清と、困り顔の親友ふたりが残された。
落ち込む清を励まそうと、大吉が明るく言う。