円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

赤い顔をして振り向けば、ドアは閉まっていて、左門の姿はない。
清と幸治は腹を抱えて笑っており、いつもの調子でからかってくる。
「そうかそうか、大吉は女給好きだとばかり思っていたが、真の恋心は左門さんに向かっていたのだな。隠すことはない。応援するぞ」
「好いた相手の世話を焼けるとは幸せな人生だ。左門さんのもとに永久就職してはどうだ?」
「僕が好きなのは美人のお姉さんだ。わかっているくせに変なことを言うなよ!」
大吉はテーブルを拳で叩いて抗議し、別の文句も付け足す。
「大体、なんでお前らが左門さんと呼ぶんだ。今日会ったばかりで馴れ馴れしいと思わないのか。僕の雇い主だぞ」
腹を立ててはいるが、食べることは忘れない。
スコッチエッグとパンを食べ終え、カスタプリンに取り掛かっていた。
(うん、美味しい。茶碗蒸しを甘くしただけかと思っていたけど、全然違うな。冷たくてなめらかで、西洋の香りがする)
大吉は怒り顔でデザートを堪能し、清と幸治はヒソヒソと話す。
「嫉妬か?」
「嫉妬だな。恋とは違えど、相当慕っているようだ」
「これ以上からかえば本気の喧嘩になるぞ。やめておくか」
「そうしよう」
学生三人の騒々しさがやっと落ち着いたら、見計らったように文子が席を立つ。
カスタプリンを半分も残していた。
彼女の表情からはおっとりとした雰囲気が消え、なんとなく目付きが鋭い。
「私もこれで失礼します。用があったのを思い出しました」
ドアへと歩き出した文子を、清が追いかけ、慌てて引き止める。
「文子さん、すみません。僕らがくだらないことばかり言うから嫌になったのですか?」
幸治と大吉も立ち上がり、気遣いがなかったことを詫びた。
すると文子はいくらか表情を和らげ、並んで立つ三人と向かい合う。