円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

左門の手掛ける事業が拡大すれば、多くの人手が必要となり、卒業後に雇ってもらえる可能性も膨らむ。
(僕にとってもいいことだ。左門さんには、是非とも女怪盗を捕らえてもらいたい……)
「成功を祈ってます」と鼻息荒く応援する大吉に、左門は頷き、席を立った。
「捨ててしまうのはもったいない。私の分は大吉が食べなさい」
左門が料理に少しも手をつけなかったのは、最初から大吉に食べさせるつもりであったためのようだ。
初めからそう言わなかったのは意地悪な感は否めないが、単純な大吉は喜ぶ。
「ありがとうございます! 左門さんの優しさが胃袋にしみるなぁ」
その言葉で、左門の眉間に皺が寄る。
先月、真の実業家に優しい人間はいないと言われたことを、大吉はもう忘れていた。
左門の不機嫌さに少しも気づかず、早速、椅子に座って食べ始める。
(とろっとした黄身と挽肉の相性は抜群だ。衣があるから肉汁が失われていないし、揚げ具合は最高。白身が淡白だから、こってりしたブラウンソースとの塩梅がいい。つまり僕は、スコッチエッグが大好きだ!)
旺盛すぎる食欲に呆れ顔の左門が、壁から帽子を取って被り、ドアノブに手をかけた。
押し開けて廊下に出て行きつつ、大吉の背に淡白な声をかける。
「明日明後日は、私の屋敷の掃除と洗濯は不要だ。風呂焚きもな。背中を流しますかと世話を焼くこともしなくて良い」
「むぐっ……!」
大吉は、スコッチエッグを喉に詰まらせた。
男の自分が、他人の家事を引き受けているのを恥ずかしく感じており、親友ふたりにも話していなかった。
それを暴露されただけではなく、ありもしないことまで言われ、喉に引っかかっている卵を水で流し込むと、焦って否定した。
「実際に背中を流したことなんか、ないじゃないですか! この前は気を利かせてちょっと聞いてみただけで、入浴中は立ち入り禁止だと断ったくせに……あっ」