ムスッとした顔と投げやりな口調に、幸治がからかってくる。
「ひとりだけ食べられなくて、怒っているのか?」
「怒ってない。僕は従業員だから当たり前なんだ。腹を立てるほど子供じゃないし、いやしくもないぞ」
「食べたくて仕方ないから腹立たしいと白状しているようなものだな」
「違うと言ってるだろ」
大吉と幸治が口喧嘩を始め、「文子さんの前でやめてくれよ」と清が仲裁に入る。
左門はポケットから金の懐中時計を取り出し、蓋を開けて時刻を確認している。
間もなく午後七時になるところで、左門は「君達」と深みのある声で呼びかけた。
「私はこれで失礼する。明日は早朝から出かける予定がある。鉄道で遠方まで出向くため、今夜中に支度をせねばならないのだ」
口論をピタリとやめた大吉は、左門に歩み寄って聞く。
「遠方ということは、もしや泊まりですか?」
「そうだ。小樽で一泊し、日曜の夕方に帰る。実はな……」
そこで言葉を切った左門は、ニヤリとして声を低くした。
「例の女怪盗が小樽にいるという情報が入った。私の知人が、潜伏先も掴んでいる。いよいよ女怪盗とご対面というわけだ」
カチャンと小さな音がして、左門が正面に視線を向けた。
カスタプリンを食べていた文子が、皿の縁に銀のスプーンをぶつけてしまったようだ。
恥ずかしそうな顔をして「ごめんなさい」と小声で謝った文子は、スプーンを置く。
大吉は、女怪盗の話に興奮していた。
「潜伏先までわかったとは、すごいです。でもどうして小樽なんですか?」
「富裕層の男達の警戒心が強くなってきたからな。函館では騙しにくくなったのだろう」
その説明で簡単に納得した大吉は、急展開を喜んだ。
一昨日の左門は手掛かりすら掴めず悩んでいた様子であったのに、二日足らずで居場所を掴んだとはさすがである。
これで播磨から、港の使用権を分けてもらうことができるだろう。
「ひとりだけ食べられなくて、怒っているのか?」
「怒ってない。僕は従業員だから当たり前なんだ。腹を立てるほど子供じゃないし、いやしくもないぞ」
「食べたくて仕方ないから腹立たしいと白状しているようなものだな」
「違うと言ってるだろ」
大吉と幸治が口喧嘩を始め、「文子さんの前でやめてくれよ」と清が仲裁に入る。
左門はポケットから金の懐中時計を取り出し、蓋を開けて時刻を確認している。
間もなく午後七時になるところで、左門は「君達」と深みのある声で呼びかけた。
「私はこれで失礼する。明日は早朝から出かける予定がある。鉄道で遠方まで出向くため、今夜中に支度をせねばならないのだ」
口論をピタリとやめた大吉は、左門に歩み寄って聞く。
「遠方ということは、もしや泊まりですか?」
「そうだ。小樽で一泊し、日曜の夕方に帰る。実はな……」
そこで言葉を切った左門は、ニヤリとして声を低くした。
「例の女怪盗が小樽にいるという情報が入った。私の知人が、潜伏先も掴んでいる。いよいよ女怪盗とご対面というわけだ」
カチャンと小さな音がして、左門が正面に視線を向けた。
カスタプリンを食べていた文子が、皿の縁に銀のスプーンをぶつけてしまったようだ。
恥ずかしそうな顔をして「ごめんなさい」と小声で謝った文子は、スプーンを置く。
大吉は、女怪盗の話に興奮していた。
「潜伏先までわかったとは、すごいです。でもどうして小樽なんですか?」
「富裕層の男達の警戒心が強くなってきたからな。函館では騙しにくくなったのだろう」
その説明で簡単に納得した大吉は、急展開を喜んだ。
一昨日の左門は手掛かりすら掴めず悩んでいた様子であったのに、二日足らずで居場所を掴んだとはさすがである。
これで播磨から、港の使用権を分けてもらうことができるだろう。
