「銀行へ入金しにいくまで、売上金をこの中に保管している。その他には、今、浪漫亭で出しているメニューのレシピを記したものと、予備の鍵を入れている。先ほど見せた部屋と、厨房、私の屋敷と従業員宿舎の鍵だ」
大吉がこの金庫に用があることはないだろう。
なんの気なく説明を聞いているが、今日の左門はやけに饒舌だと、その点は引っかかった。
左門はさらに続ける。
「解錠の暗号は私が子供の頃に飼っていた雌猫の名前で、私の他にはコック長とホール責任者が知っている。だが、一般的な猫の名前だから、いくつか試せば開けられてしまうかもしれないな」
猫の名前といえば、タマ、シロ、ミケといったところであろうか。
イロハ錠は大抵三文字なので、語尾に“子”でもつけて呼んでいたのかもしれない。
(そんなことまで話して大丈夫なのか? まぁ、僕らの中に泥棒はいないから、いいのかもしれないけど……)
いつもと違う左門に違和感を覚えて眉を寄せれば、左門が手を鳴らした。
「そろそろディナーにしよう。我々三人の給仕係は大吉だ。特別室に料理を運びたまえ」
「えっ、なんで僕が!?」
「ホールは今、忙しい時間帯だろう。穂積達を使うのは気の毒だ」
どうやら大吉が呼ばれた真の目的は、これであったらしい。
余計な仕事をさせられるだけでなく、級友達が食べる様子を近くで見るだけとは、苦行に近いものがある。
拒否したいところだが雇い主の命には逆らえず、大吉は渋々、厨房へ戻った。
穂積から話を聞いた森山は、清達用の料理をすでに仕上げていた。
メニューは大吉がまだ食べたことのない、スコッチエッグである。
肉だねと衣を纏い、油で狐色に揚げられた卵は、皿の上で半分に切られている。
半熟の黄身がなんとも美味しそうで、バターと砂糖で甘く煮た人参と、オランダガラシ、別名クレソンという西洋野菜が皿の上に彩りを添えていた。
大吉がこの金庫に用があることはないだろう。
なんの気なく説明を聞いているが、今日の左門はやけに饒舌だと、その点は引っかかった。
左門はさらに続ける。
「解錠の暗号は私が子供の頃に飼っていた雌猫の名前で、私の他にはコック長とホール責任者が知っている。だが、一般的な猫の名前だから、いくつか試せば開けられてしまうかもしれないな」
猫の名前といえば、タマ、シロ、ミケといったところであろうか。
イロハ錠は大抵三文字なので、語尾に“子”でもつけて呼んでいたのかもしれない。
(そんなことまで話して大丈夫なのか? まぁ、僕らの中に泥棒はいないから、いいのかもしれないけど……)
いつもと違う左門に違和感を覚えて眉を寄せれば、左門が手を鳴らした。
「そろそろディナーにしよう。我々三人の給仕係は大吉だ。特別室に料理を運びたまえ」
「えっ、なんで僕が!?」
「ホールは今、忙しい時間帯だろう。穂積達を使うのは気の毒だ」
どうやら大吉が呼ばれた真の目的は、これであったらしい。
余計な仕事をさせられるだけでなく、級友達が食べる様子を近くで見るだけとは、苦行に近いものがある。
拒否したいところだが雇い主の命には逆らえず、大吉は渋々、厨房へ戻った。
穂積から話を聞いた森山は、清達用の料理をすでに仕上げていた。
メニューは大吉がまだ食べたことのない、スコッチエッグである。
肉だねと衣を纏い、油で狐色に揚げられた卵は、皿の上で半分に切られている。
半熟の黄身がなんとも美味しそうで、バターと砂糖で甘く煮た人参と、オランダガラシ、別名クレソンという西洋野菜が皿の上に彩りを添えていた。
