円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

うっとりとした表情の文子は、「まぁ」とため息交じりに呟き、ふたりの会話を少し離れた後ろで聞いている大吉は肝を冷やしていた。
(あの屋敷にある美術品は、そんなに高いものなのか。普通にハタキをかけて、雑巾で乾拭きしていたぞ。今後はよくよく気をつけて掃除をしよう……)
そんなことを思っていたら、隣に清が立ち、声を潜めて話しかけてきた。
「おい、ふたりがいい雰囲気になっているじゃないか。なんとかしてくれ」
清は左門が恋敵になるのではないかと危ぶみ、勝ち目がないことに焦っているようである。
左門が恋愛事に興味がないのを、大吉は知っている。
加えて文子の方も、左門ではなく、美術品の方に関心があるような会話をしていた。
清の心配は的外れだと思うが、ハラハラしている親友が気の毒なので、左門に声をかける。
「この部屋はもういいでしょう。次を見せてください」
一行は廊下に戻り移動した。
次のドアには鍵はかかっておらず、中を開ければ使用していない椅子やワゴンなどの備品が収納されているだけであった。
そして特別室の隣の、突き当たりの部屋は、事務室である。
話には聞いていたが入ったことのなかった大吉は、八畳ほどの部屋をしげしげと眺める。
書棚には古い資料がぎっしりと収められており、前経営者時代のレシピ帳や帳簿もあるらしい。
机がふたつ向かい合わせに置かれていて、ひとつは左門、もうひとつは穂積が帳簿をつけるのに使っているそうだ。
壁際には金庫もある。
左門の屋敷にあるものより一回り小さいが、艶やかに黒光りして、大金が入っていそうな雰囲気である。
「立派な金庫……」
文子が嘆息して呟き、清と幸治が頷いている。
皆の注目を集めている金庫に手をかけた左門は、微笑して説明する。