学生三人は「すごい部屋だ」と感嘆し、文子はゆっくり歩きだすと、隅に飾られている掛軸の前で足を止めて見入っている。
左門が文子の隣に立ち、紳士的に話しかけた。
「それに興味を持ってくださるとは嬉しいですね。あなたは優れた審美眼をお持ちのようだ」
「あ……そんなことはないです。我が家は貧しいので、掛軸のことはさっぱり。ただ、これと似た虎の絵を以前、見たことがありまして」
「そうですか。これは大橋翠石の『猛虎図』といいます。パリ万国博覧会で優等金牌に輝いた逸品。あなたが見たのはおそらく、翠石の別の作品でしょう。『虎の翠石』と呼ばれるほど、多くの虎図を描いている画家ですから。あなたはどちらで虎の掛軸を見たのですか?」
左門の問いかけに、文子は小首を傾げて可愛らしく考え、それから恥ずかしそうに答える。
「すみません。覚えておりません」
左門は深く追求することなく頷いて、話題を少しずらす。
「この日本画を含め、ここにある美術品は全て、いずれは手放すつもりでいます」
左門が美術品を収集しているのは、資産運用のひとつの形であるらしい。
けれども特に気に入っているものは売らず、自宅に飾っていると言う。
この部屋に美術商や収集家を招くことがあっても、レストランの客を入れることはないそうだ。
頷いて聞いていた文子が、遠慮がちに問いかける。
「あの、下世話な質問ですみませんが、この部屋のものを全て売ったら、おいくらほどになるのでしょう?」
「そうですね、この浪漫亭の建物を三軒買える程度でしょうか」
「私には想像できないほどの値段だということですね」
「驚くことはありません。これらには値段をつけられますので。裏手にある私の屋敷には、値もつけられないほど価値ある美術品を飾っています。非常に貴重なものばかりなので、他人に見せるつもりはありません」
左門が文子の隣に立ち、紳士的に話しかけた。
「それに興味を持ってくださるとは嬉しいですね。あなたは優れた審美眼をお持ちのようだ」
「あ……そんなことはないです。我が家は貧しいので、掛軸のことはさっぱり。ただ、これと似た虎の絵を以前、見たことがありまして」
「そうですか。これは大橋翠石の『猛虎図』といいます。パリ万国博覧会で優等金牌に輝いた逸品。あなたが見たのはおそらく、翠石の別の作品でしょう。『虎の翠石』と呼ばれるほど、多くの虎図を描いている画家ですから。あなたはどちらで虎の掛軸を見たのですか?」
左門の問いかけに、文子は小首を傾げて可愛らしく考え、それから恥ずかしそうに答える。
「すみません。覚えておりません」
左門は深く追求することなく頷いて、話題を少しずらす。
「この日本画を含め、ここにある美術品は全て、いずれは手放すつもりでいます」
左門が美術品を収集しているのは、資産運用のひとつの形であるらしい。
けれども特に気に入っているものは売らず、自宅に飾っていると言う。
この部屋に美術商や収集家を招くことがあっても、レストランの客を入れることはないそうだ。
頷いて聞いていた文子が、遠慮がちに問いかける。
「あの、下世話な質問ですみませんが、この部屋のものを全て売ったら、おいくらほどになるのでしょう?」
「そうですね、この浪漫亭の建物を三軒買える程度でしょうか」
「私には想像できないほどの値段だということですね」
「驚くことはありません。これらには値段をつけられますので。裏手にある私の屋敷には、値もつけられないほど価値ある美術品を飾っています。非常に貴重なものばかりなので、他人に見せるつもりはありません」
