(半分も聞いていない感じだな……)
口を閉ざすと、今度は左門がぶつぶつと呟きだした。
「変装に使われたバスガールや電話交換手の制服は非売品だ。入手経路がわかれば女怪盗に繋がるだろう。被害者の女性の好みを初めから把握していたというのも、手掛かりになりそうだな。似顔絵の方は……」
どうやら左門は、女怪盗に夢中な様子。
警察が作成したという似顔絵を入手したようで、茶封筒から引っ張り出すと、睨むように見ている。
大吉は雑巾を床に放置して、左門の後ろから似顔絵を覗き込んだ。
世間を賑わせている女怪盗には、人並みの興味を持っている。
「なぜ何枚もあるんですか?」
似顔絵の書かれた紙は九枚あり、どれも見目好い若い女性だが、別人のように雰囲気の違う女が描かれていた。
「被害を申告した九人から、それぞれ聞き取りをして描いたからだ。同一人物が、化粧や服装、髪型で、ここまで印象を変えられるとは実に見事だ」
女怪盗の変装技術に感心するようなことを言った左門は、「この中に見覚えのある顔はないか?」と問いかけてきた。
大吉にまで聞くということは、調査が思うように進んでいないのだろう。
頼られた気分で張り切る大吉は、渡された似顔絵を一枚一枚じっくりと見たが、残念ながら思い当たる節はない。
「わかりません」と似顔絵を返して、言い訳をする。
「好みの女性なら、一度すれ違っただけで細部まで覚えられるんですけどね。大人しめであったり、才女風であったり、そういう女性だと、たとえ見かけたことがあっても忘れているかもしれません」
すると左門に鼻を鳴らされた。
「自分の好みしか記憶しないとは、役立たずだな」
「なっ……」
その言葉は、牡丹に振られた時より衝撃であった。
左門に切り捨てられた気分で焦る大吉は、慌てて言い繕う。
口を閉ざすと、今度は左門がぶつぶつと呟きだした。
「変装に使われたバスガールや電話交換手の制服は非売品だ。入手経路がわかれば女怪盗に繋がるだろう。被害者の女性の好みを初めから把握していたというのも、手掛かりになりそうだな。似顔絵の方は……」
どうやら左門は、女怪盗に夢中な様子。
警察が作成したという似顔絵を入手したようで、茶封筒から引っ張り出すと、睨むように見ている。
大吉は雑巾を床に放置して、左門の後ろから似顔絵を覗き込んだ。
世間を賑わせている女怪盗には、人並みの興味を持っている。
「なぜ何枚もあるんですか?」
似顔絵の書かれた紙は九枚あり、どれも見目好い若い女性だが、別人のように雰囲気の違う女が描かれていた。
「被害を申告した九人から、それぞれ聞き取りをして描いたからだ。同一人物が、化粧や服装、髪型で、ここまで印象を変えられるとは実に見事だ」
女怪盗の変装技術に感心するようなことを言った左門は、「この中に見覚えのある顔はないか?」と問いかけてきた。
大吉にまで聞くということは、調査が思うように進んでいないのだろう。
頼られた気分で張り切る大吉は、渡された似顔絵を一枚一枚じっくりと見たが、残念ながら思い当たる節はない。
「わかりません」と似顔絵を返して、言い訳をする。
「好みの女性なら、一度すれ違っただけで細部まで覚えられるんですけどね。大人しめであったり、才女風であったり、そういう女性だと、たとえ見かけたことがあっても忘れているかもしれません」
すると左門に鼻を鳴らされた。
「自分の好みしか記憶しないとは、役立たずだな」
「なっ……」
その言葉は、牡丹に振られた時より衝撃であった。
左門に切り捨てられた気分で焦る大吉は、慌てて言い繕う。
