店員に『ご姉弟ですか?』と問われて、牡丹が『そうです』と答えたことが、不満のひとつ目である。
アイスクリームも牡丹に奢られて、男として見てくれていないと気づいたからだ。
ふたつ目の不満は、会話であった。
牡丹が問いかけてくるのは、左門のことばかり。
人となりから始まり、趣味や女性の好み、屋敷内の間取りやどんな家具を置いているのか、留守にしている時間や就寝時間など、質問が絶えることはなかった。
『この前の来店で大吉君は、無理言って連れてきてもらったと話していたわよね。大蔵様は、お願いすれば誘いに乗ってくださる人なのかしら?』
期待を込めた口調でそんなことを尋ねられたら、大吉は面白くない。
それで左門の株を下げるつもりで、仕事中にアイロンがけをしろと呼び出された時のことを話して聞かせた。
大吉としては左門の人使いの荒さを暴露してやったつもりであったのに、牡丹は少しも同情してくれなかった。
『お屋敷の予備の鍵は、浪漫亭の金庫の中なのね』と、どうでもいいことに興味を持ち、クスクスと笑うだけであったのだ。
悔しさを吐き出したくて、大吉は掃除をしながら、昨日の出来事を左門に話した。
「ということでランデブーが終わったんです。次はいつ会ってくれるのかと聞いたら、僕が大人になったらカフェーで会いましょうと言うんですよ。つまり私的には二度と会わないってことです。期待させられた分、余計にがっかりだ」
さらに悪いことに、嘘をついて学校をさぼったことをなぜか教師に知られてしまい、今日は級友たちの前で叱責された。
全くもって、散々なランデブー結果である。
左門は手帳を開いてなにやら思案に耽っていた。
大吉に同情も呆れもなく、勝手に人の情報を漏らすなと叱りもせずに、「ああ、そうか」と相槌を打つだけだ。
床掃除の手を止めた大吉は、三歩ほど離れた長椅子に座る左門を見上げ、頬を膨らませる。
アイスクリームも牡丹に奢られて、男として見てくれていないと気づいたからだ。
ふたつ目の不満は、会話であった。
牡丹が問いかけてくるのは、左門のことばかり。
人となりから始まり、趣味や女性の好み、屋敷内の間取りやどんな家具を置いているのか、留守にしている時間や就寝時間など、質問が絶えることはなかった。
『この前の来店で大吉君は、無理言って連れてきてもらったと話していたわよね。大蔵様は、お願いすれば誘いに乗ってくださる人なのかしら?』
期待を込めた口調でそんなことを尋ねられたら、大吉は面白くない。
それで左門の株を下げるつもりで、仕事中にアイロンがけをしろと呼び出された時のことを話して聞かせた。
大吉としては左門の人使いの荒さを暴露してやったつもりであったのに、牡丹は少しも同情してくれなかった。
『お屋敷の予備の鍵は、浪漫亭の金庫の中なのね』と、どうでもいいことに興味を持ち、クスクスと笑うだけであったのだ。
悔しさを吐き出したくて、大吉は掃除をしながら、昨日の出来事を左門に話した。
「ということでランデブーが終わったんです。次はいつ会ってくれるのかと聞いたら、僕が大人になったらカフェーで会いましょうと言うんですよ。つまり私的には二度と会わないってことです。期待させられた分、余計にがっかりだ」
さらに悪いことに、嘘をついて学校をさぼったことをなぜか教師に知られてしまい、今日は級友たちの前で叱責された。
全くもって、散々なランデブー結果である。
左門は手帳を開いてなにやら思案に耽っていた。
大吉に同情も呆れもなく、勝手に人の情報を漏らすなと叱りもせずに、「ああ、そうか」と相槌を打つだけだ。
床掃除の手を止めた大吉は、三歩ほど離れた長椅子に座る左門を見上げ、頬を膨らませる。
