円城寺士門の謎解きディナー〜浪漫亭へようこそ〜

陶磁器や絵画などの美術品が数点飾られていて、大吉はそれらにハタキをかけ、雑巾で乾拭きした。
続いて出窓に上り、窓ガラスを拭く。
使うのは濡らした新聞紙で、それで擦れば雑巾よりもずっと綺麗になるのだと、以前、柘植が教えてくれた。
掃除の指南までしてくれる柘植だが、この屋敷の掃除を手伝ってはくれない。
『左門さんは大吉君にやってもらいたいのですよ』
というのが理由らしいが、なぜ自分でなければならないのかと、大吉は納得しかねていた。
「ガラス拭きなんて、大晦日の大掃除だけでいいのに……」
文句を呟きながら手を動かしていると、湯上りの左門が応接間に入ってきた。
氷を入れた紅茶と革の手帳、それと茶封筒を手にしており、長椅子に腰掛ける。
着ているのはガウンと呼ばれるタオル地の浴衣のようなものだ。
大吉が日常的に使うのは、手ぬぐいである。
タオル自体が珍しいので、それを服に仕立てたものを着る人は、左門しか見たことがない。
「窓を開けてくれ」
背を向けたままの左門に言われて、上げ下げ式の洋窓を全開にした大吉は、出窓から下りた。
濡れ新聞を捨てて雑巾を持つと、今度は板間部分の拭き掃除に取り掛かる。
柱時計が午後四時を指している。
窓から入り込むそよ風は、山を下りてきたため涼やかで、グラスの紅茶とともに左門の火照りを冷ましていた。
(こんな時間から風呂に入ってお茶を楽しむとは、優雅なもんだ。こっちは汗だくで掃除をやらされてるっていうのに……)
ごしごしと床を擦る手に、必要以上に力が込もるのは、他にも理由がある。
昨日は約束通り、牡丹とランデブーしたのだが、期待とはかけ離れた結果となってしまった。
昼間しか時間がないという牡丹に合わせ、大吉は学校に病欠だと嘘をついて彼女と会った。
港で汽船を眺め、純喫茶でアイスクリームを食べた。