“マッチの子”と女給達の間で呼ばれている大吉なので、隠しても無駄なようだ。
播磨に紹介された時に、それを言わないでいてくれたのは、客の話に合わせる習慣が身についているからなのかもしれない。
「本当はどういう関係なの?」
牡丹に問われた大吉は、浪漫亭の調理補助をしていることや、今日はどうしてもカフェーに入りたくて同行を頼み込んだという事情をこっそり打ち明けた。
「播磨さんには内緒にしてください。嘘をついたと知れたら、左門さんの立場が悪くなる」
バツの悪い顔をして頼めば、牡丹が大吉に手を重ね、色気のある声を耳に吹き込んできた。
「もちろんよ。その代わり、私を一番気に入ったと大蔵様に伝えてね」
他の三人の女給達が「ずるいわ」と抗議して、奪い合うように大吉に抱きつき、「私のことも良く言って」とお願いしてくる。
(お姉さん達の胸が僕の背中や腕に当たっている。ああ、ここは極楽浄土か……)
大吉が夢の世界に浸っている間、玉突きの音が響いていた。
ビリヤードに興じる実業家のふたりは、緊張感ある会話を繰り広げている。
「九番玉を落としました。私の勝ちです」
左門が不敵な笑みを浮かべてそう言えば、播磨が玉突きの棒で自分の肩を叩いて唸る。
「君は私に気持ち良く勝たせるつもりはないのか。その方が話を進めやすいだろうに」
「播磨さんは勝負事がお好きだと聞いています。手加減して勝っても良い気分にはならないかと思いまして。遊びも経営も、真の勝負師なのでしょうから」
「憎たらしい褒め方をする。このままでは帰さんぞ。大蔵君、もうひと勝負だ」
台の中央に四角く並べた九個の色玉に、播磨が棒で突いた白い手玉をぶつける。
色玉はひとつも穴に落ちず、すぐに左門の番になる。
一番の色玉から順に、確実に落としていく左門に、「容赦ないな」と播磨の呆れ声がかけられた。
播磨に紹介された時に、それを言わないでいてくれたのは、客の話に合わせる習慣が身についているからなのかもしれない。
「本当はどういう関係なの?」
牡丹に問われた大吉は、浪漫亭の調理補助をしていることや、今日はどうしてもカフェーに入りたくて同行を頼み込んだという事情をこっそり打ち明けた。
「播磨さんには内緒にしてください。嘘をついたと知れたら、左門さんの立場が悪くなる」
バツの悪い顔をして頼めば、牡丹が大吉に手を重ね、色気のある声を耳に吹き込んできた。
「もちろんよ。その代わり、私を一番気に入ったと大蔵様に伝えてね」
他の三人の女給達が「ずるいわ」と抗議して、奪い合うように大吉に抱きつき、「私のことも良く言って」とお願いしてくる。
(お姉さん達の胸が僕の背中や腕に当たっている。ああ、ここは極楽浄土か……)
大吉が夢の世界に浸っている間、玉突きの音が響いていた。
ビリヤードに興じる実業家のふたりは、緊張感ある会話を繰り広げている。
「九番玉を落としました。私の勝ちです」
左門が不敵な笑みを浮かべてそう言えば、播磨が玉突きの棒で自分の肩を叩いて唸る。
「君は私に気持ち良く勝たせるつもりはないのか。その方が話を進めやすいだろうに」
「播磨さんは勝負事がお好きだと聞いています。手加減して勝っても良い気分にはならないかと思いまして。遊びも経営も、真の勝負師なのでしょうから」
「憎たらしい褒め方をする。このままでは帰さんぞ。大蔵君、もうひと勝負だ」
台の中央に四角く並べた九個の色玉に、播磨が棒で突いた白い手玉をぶつける。
色玉はひとつも穴に落ちず、すぐに左門の番になる。
一番の色玉から順に、確実に落としていく左門に、「容赦ないな」と播磨の呆れ声がかけられた。
