「播磨さんとふたりで話したい。君達は大吉の相手をしてやってくれ」
女給は客の頼みを聞くものであり、嫌とは言わずにテーブルに引き返してくる。
けれどもその表情は不満げで、大吉は傷ついた。
すると左門が口の端を上げ、彼女達に言う。
「私は大吉を可愛がっている。大吉が気に入った者には、チップを倍に弾んでやろう」
これまで可愛がってもらった事実はないけれど、左門がそう言ってくれたお陰で、大吉はやっとカフェーらしさを味わうことができた。
右に牡丹、左に椿、後ろから大吉の肩に手を置いているのは千代で、正面からテーブル越しにつまみを食べさせてくれるのは美子である。
(左門さん、ありがとうございます!)
濃厚な接待をしてもらうという夢を叶えた大吉は、赤い顔をしてのぼせそうになっている。
女給の肩を抱いて踏ん反り返る偉そうな自分を思い描いてきたのに、実際はそうはいかず、緊張から体を硬くしていた。
「もっと楽にしていいのよ」と牡丹に顔を近づけられ、「はい」と答える声が裏返る。
「可愛いわね」「まだ十三歳ですものね」と他の女給にクスクスと笑われたら、牡丹が声を落として言った。
「本当は十七歳。そうでしょう?」
「えっ!?」
なぜ知っているのかと大吉が驚けば、牡丹がなんてことない顔で答える。
「大吉君がそう言ったのよ。初めて声をかけてきた時かしら」
牡丹に初めて声をかけたのは、半年ほど前のことだ。
この通りで見かけてひと目で好きになり、どこに勤めているのかと聞いた。
麗人館で働き始めたばかりだと言われた記憶はあるけれど、自分の年齢を話したかどうかは忘れてしまった。
それでも牡丹が言うのなら、そうなのだろうと大吉は納得して頷く。
クスリと魅惑的に微笑む牡丹は、もうひとつの嘘も小声で指摘してきた。
「大蔵様の遠縁というのも違うわよね。お金持ちの子なら、マッチひと箱をねだりに来たりしないもの」
女給は客の頼みを聞くものであり、嫌とは言わずにテーブルに引き返してくる。
けれどもその表情は不満げで、大吉は傷ついた。
すると左門が口の端を上げ、彼女達に言う。
「私は大吉を可愛がっている。大吉が気に入った者には、チップを倍に弾んでやろう」
これまで可愛がってもらった事実はないけれど、左門がそう言ってくれたお陰で、大吉はやっとカフェーらしさを味わうことができた。
右に牡丹、左に椿、後ろから大吉の肩に手を置いているのは千代で、正面からテーブル越しにつまみを食べさせてくれるのは美子である。
(左門さん、ありがとうございます!)
濃厚な接待をしてもらうという夢を叶えた大吉は、赤い顔をしてのぼせそうになっている。
女給の肩を抱いて踏ん反り返る偉そうな自分を思い描いてきたのに、実際はそうはいかず、緊張から体を硬くしていた。
「もっと楽にしていいのよ」と牡丹に顔を近づけられ、「はい」と答える声が裏返る。
「可愛いわね」「まだ十三歳ですものね」と他の女給にクスクスと笑われたら、牡丹が声を落として言った。
「本当は十七歳。そうでしょう?」
「えっ!?」
なぜ知っているのかと大吉が驚けば、牡丹がなんてことない顔で答える。
「大吉君がそう言ったのよ。初めて声をかけてきた時かしら」
牡丹に初めて声をかけたのは、半年ほど前のことだ。
この通りで見かけてひと目で好きになり、どこに勤めているのかと聞いた。
麗人館で働き始めたばかりだと言われた記憶はあるけれど、自分の年齢を話したかどうかは忘れてしまった。
それでも牡丹が言うのなら、そうなのだろうと大吉は納得して頷く。
クスリと魅惑的に微笑む牡丹は、もうひとつの嘘も小声で指摘してきた。
「大蔵様の遠縁というのも違うわよね。お金持ちの子なら、マッチひと箱をねだりに来たりしないもの」
