「初めまして。濱崎大吉と言います」
「ほう、可愛らしい顔の坊ちゃんだ。どういう関係かな?」
播磨に問われて、どう説明しようかと口ごもれば、左門が平然と嘘をつく。
「私の遠縁の子供です。歳は十三。社会勉強をさせてやってほしいとこの子の親に頼まれまして、しばらく預かっています。勝手に連れてきたことをお許しください」
大吉が目を丸くして左門を見たのは、四つも若く年齢を偽られたせいだ。
遠縁と言われたことは、構わない。
本当の関係性を話せば、なぜそのような者を商談の場に連れてきたのかと不思議に思われてしまうだろうから。
しかし年齢を偽る必要はないだろう。
後ろにいる三人の女給達は、「十三歳なのね」とすんなり納得しているようで、それも気に障る。
(僕はそんなに子供じゃないぞ……)
その気持ちを口にも顔にも出せないのは、左門が無言の圧力をかけてくるせいだ。
大吉を見る琥珀色の宝石のような瞳が、話を合わせなければ追い出すと語っていた。
それで大吉は不満を押し込め、「よろしくお願いします」と会釈するだけにしておいた。
その後はテーブルに着いて、飲食しながら話をする。
左門は白ワインで、播磨はビールだ。
大吉にはシャンペンサイダーという、アルコールの入っていない発泡飲料が出された。
つまみは数種類で、和食も洋食もある。
世界経済と日本の貿易における展望について語り合っている実業家のふたりに、女給達はベタベタと世話を焼いているが、大吉には見向きもしない。
(子供の相手をしても意味がないと思われているのか。せっかくカフェーに来たのに、これじゃ楽しめない……)
そのような時間が二十分ほど続いて、左門が播磨をビリヤードに誘った。
「いいだろう。ナインボールは得意だ」
播磨が脱いだ上着を牡丹が預かり、衣紋掛けに吊るす。
他の女給達も立ち上がり、ビリヤード台の方へ向かおうとしているが、左門が制止する。