接待してくれる女給は三人待ち構えていて、大吉が一番会いたかった牡丹の姿がないのは少々残念である。
三人の名は、椿、千代、美子だ。
大吉の方は一方的に知っているが、彼女達は気づかない……というより、左門に色めき立っており、大吉の存在が目に入らないようである。
「大蔵様のご来店が待ち遠しくて、昨夜は眠れませんでしたのよ」
「お帽子、お預かりいたします。今日も素敵なお召し物ですわ。それが良く似合っていらっしゃる。大蔵様は函館一の美男子ですわね」
「お飲み物はなににいたしましょう。お料理も召し上がりますか? うんとサービスしますので、私を隣に座らせてくださいませ」
どうやら左門は何度も麗人館を利用しているようで、大した人気である。
女給が狙うのは左門の美貌か、それともチップか。
どちらにしても両手に花なのが、大吉は羨ましい。
けれども左門としては少しも嬉しくないようで、むしろ眉間には微かに皺が寄り、煩わしそうである。
(女給に擦り寄られて不愉快に思うとは、左門さんは変わっているな……)
支配人は一礼して去っていき、大吉は入口近くに突っ立ったまま、虚しい気持ちになっていた。
(僕には声もかけてくれないのか。一応、客として来ているのに……)
不満に思いながらカンカン帽を外して、自ら壁にかけ、ビリヤード台に歩み寄る。
色を塗られたボールを指で突いていじけていたら、左門が女給達に言った。
「私より、あの子の相手をしてやってくれ」
その言葉で女給達はやっと大吉の存在に意識を向けた。
「あら、もしかしてマッチの子?」
「例の噂の学生さんね。確か名前は大吉君だったかしら」
「大蔵様のお知り合いとは、驚いたわ」
左門から離れないまま、女給達は口々に言い、大吉の頬が引きつった。
(マッチの子って……僕はそんな風に噂されていたのか)
三人の名は、椿、千代、美子だ。
大吉の方は一方的に知っているが、彼女達は気づかない……というより、左門に色めき立っており、大吉の存在が目に入らないようである。
「大蔵様のご来店が待ち遠しくて、昨夜は眠れませんでしたのよ」
「お帽子、お預かりいたします。今日も素敵なお召し物ですわ。それが良く似合っていらっしゃる。大蔵様は函館一の美男子ですわね」
「お飲み物はなににいたしましょう。お料理も召し上がりますか? うんとサービスしますので、私を隣に座らせてくださいませ」
どうやら左門は何度も麗人館を利用しているようで、大した人気である。
女給が狙うのは左門の美貌か、それともチップか。
どちらにしても両手に花なのが、大吉は羨ましい。
けれども左門としては少しも嬉しくないようで、むしろ眉間には微かに皺が寄り、煩わしそうである。
(女給に擦り寄られて不愉快に思うとは、左門さんは変わっているな……)
支配人は一礼して去っていき、大吉は入口近くに突っ立ったまま、虚しい気持ちになっていた。
(僕には声もかけてくれないのか。一応、客として来ているのに……)
不満に思いながらカンカン帽を外して、自ら壁にかけ、ビリヤード台に歩み寄る。
色を塗られたボールを指で突いていじけていたら、左門が女給達に言った。
「私より、あの子の相手をしてやってくれ」
その言葉で女給達はやっと大吉の存在に意識を向けた。
「あら、もしかしてマッチの子?」
「例の噂の学生さんね。確か名前は大吉君だったかしら」
「大蔵様のお知り合いとは、驚いたわ」
左門から離れないまま、女給達は口々に言い、大吉の頬が引きつった。
(マッチの子って……僕はそんな風に噂されていたのか)