手揉みしている支配人は、左門の横にいる大吉に気づくと、ぎょっとした顔をする。
「お連れ様でしょうか……?」
左門は「そうだ」とだけ答え、大吉は得意げに「そうです」と言う。
どういう関係なのかと戸惑っている様子の支配人だが、上客の左門に対して不躾な質問はせずに笑みを作り直した。
「ご案内いたします」
支配人の後について広いホールを進む。
磨き抜かれた大理石張りの床に、革靴の足音が小気味良く響く。
高い天井には洒落た電灯が幾つも輝き、窓はステンドグラスだ。
西洋の彫像や油絵が壁を飾り、布張りの長椅子とテーブルは豪華な作りであった。
蓄音機からは洋楽が流れ、煙草と珈琲、ビールの香りが微かに漂う。
上質な大人の空間で談笑しているのは紳士達で、品のある笑い声が聞こえてくる。
カフェーに入ることを初めて許された大吉は、目を輝かせて店内を見回していた。
(浪漫亭の客も立派な服装で来るけれど、ここは雰囲気が違う。イキと言ったらいいのか、皆、洒落た格好をしているな……)
カフェーにある全てが大吉の胸を高鳴らせるが、なんと言っても興奮するのは、揃いの着物にヒラヒラした白いエプロン姿の女給達である。
接客についている者も、料理や飲み物を運ぶ者も、ざっと見渡した限り三十人ほどいそうな女給達は美人揃いである。
年齢は十六くらいから、二十代前半がほとんどだと聞いたことがあるが、皆はっきりとした化粧をしているせいか、年齢以上の色気を醸していた。
大吉好みの美人のお姉さんだらけで、目移りして仕方ない。
通されたのは階段を上った二階の奥で、ドアはなく、壁で区切られた半個室である。
広さは十二畳ほどもあり、一際豪華なテーブルと長椅子、それと玉突き台がドンと置かれていた。
「ビリヤードのある部屋をご用意いたしました」と支配人が言ったので、玉突き遊びをそう呼ぶのだと大吉は学んだ。
もちろん、やったことはない。