呆れ顔でため息をついた左門は、ポケットから金の懐中時計を取り出した。
「六時五分。あと十分しかないな」と時刻を確認して時計をしまい、顎に拳を添えてなにやら呟く。
「大吉のことだ、連れて行けば浮かれて騒がしくするだろう。真面目な商談に水を差されたくはない。だが裏を返せば、纏わりつく女給達の相手を引き受けてくれるということでもある。逆に話しやすくなるかもしれん」
その独り言に、大吉の目が輝きだした。
胸を叩いて自信たっぷりに左門に言う。
「任せてください。美人のお姉さん方の相手は、僕が一手に引き受けます。大事な商談の邪魔はさせません」
「良かろう。君を連れて行く」
飛び上がって喜ぶ大吉に、左門は数ある洋服の中から数点を見繕い、手渡した。
「着替えなさい。腕の悪い洗濯屋に当たって、縮んでしまったズボンだ。それでも君には大きいだろうが、サスペンダーで吊って裾を折れば着られるだろう」
「洋服まで貸してくれるんですか。嬉しいなぁ」
大吉は急いでコック服を脱ぎ、着替えをする。
確かにブカブカだが、シャツの袖とズボンの裾を折り返し、サスペンダーは左門が付けてくれてなんとか着ることができた。
シルクの赤い蝶ネクタイと白い麦わらのカンカン帽まで貸してくれて、ちびっ子紳士の完成だ。
姿見に映る自分の洋装に満足する大吉は、「伊達男だ」と気取って胸を張る。
その様子に左門が吹き出しそうになっていたが、咳払いでごまかすと、「急ぐぞ」と先立って廊下に出た。
浪漫亭の駐車場で自動車に乗り込み、土埃の舞う道に走らせること数分で、目的地付近に到着した。
銀座通りの裏道沿いの駐車場で停車した左門は、路地を抜けて麗人館の前に出る。
昨日、大吉が締め出されたドアを左門が明ければ、支配人が笑顔で出迎えた。
「これはこれは大蔵様、お待ち申し上げておりました」
「六時五分。あと十分しかないな」と時刻を確認して時計をしまい、顎に拳を添えてなにやら呟く。
「大吉のことだ、連れて行けば浮かれて騒がしくするだろう。真面目な商談に水を差されたくはない。だが裏を返せば、纏わりつく女給達の相手を引き受けてくれるということでもある。逆に話しやすくなるかもしれん」
その独り言に、大吉の目が輝きだした。
胸を叩いて自信たっぷりに左門に言う。
「任せてください。美人のお姉さん方の相手は、僕が一手に引き受けます。大事な商談の邪魔はさせません」
「良かろう。君を連れて行く」
飛び上がって喜ぶ大吉に、左門は数ある洋服の中から数点を見繕い、手渡した。
「着替えなさい。腕の悪い洗濯屋に当たって、縮んでしまったズボンだ。それでも君には大きいだろうが、サスペンダーで吊って裾を折れば着られるだろう」
「洋服まで貸してくれるんですか。嬉しいなぁ」
大吉は急いでコック服を脱ぎ、着替えをする。
確かにブカブカだが、シャツの袖とズボンの裾を折り返し、サスペンダーは左門が付けてくれてなんとか着ることができた。
シルクの赤い蝶ネクタイと白い麦わらのカンカン帽まで貸してくれて、ちびっ子紳士の完成だ。
姿見に映る自分の洋装に満足する大吉は、「伊達男だ」と気取って胸を張る。
その様子に左門が吹き出しそうになっていたが、咳払いでごまかすと、「急ぐぞ」と先立って廊下に出た。
浪漫亭の駐車場で自動車に乗り込み、土埃の舞う道に走らせること数分で、目的地付近に到着した。
銀座通りの裏道沿いの駐車場で停車した左門は、路地を抜けて麗人館の前に出る。
昨日、大吉が締め出されたドアを左門が明ければ、支配人が笑顔で出迎えた。
「これはこれは大蔵様、お待ち申し上げておりました」