けれども、「階段が崩れたぞ! 二階に人はいないな?」との誰かの大声が聞こえたら、途端に焦りを思い出した。
(大変だ。早くしないと、宝物が灰になってしまう)
大吉は再び壁を上ろうとしたけれど、片手で青年に後襟を掴まれ、阻止された。
細身の引き締まった体型をしている彼だが、見た目より力は強く、大吉が手足をばたつかせても、その手は外れない。
「宝物が……放してください!」
大声で懇願する大吉に、青年は落ち着き払った声で問う。
「それはどこに置いてある、どのような品だ」
「文机の下にある桐箱です。文机は窓際にあります」
「親の形見でも入っているのか」
「違いますよ。もっとずっと大事なものです」
大吉は桐箱の中身を教えない。
秘密にしたいわけではなく、詳しく説明している暇がないのだ。
けれども青年は、大吉が隠し事をしたように捉えたようで、「気になる言い方をするな」と不満げな声で言う。
大吉が首を捻って青年に振り向けば、彼は眉間の皺を解いてニッと口の端を上げた。
「いいだろう、私が取ってきてやる。その代わり、宝物とやらの中身を確かめさせてもらうぞ」
「へ? 本当に取ってきてくれるのですか?」
「ああ。君は邪魔だ。退いていなさい」
青年は大吉を通りの近くまで下がらせると、自身は庭の中程に残り、奇妙な行動を取る。
右腕を目線の先にまっすぐに伸ばし、立てた親指と人差し指で、距離や高さを測っているような仕草をする。
指の先は、二階の窓や隣家の屋根に向けられていた。
それから彼はブツブツと計算式のような言葉を口にして、「三尺九寸、足りないな」と結論を出した。
次にリヤカーに歩み寄ると、側板を蹴り外して小脇に抱える。
大吉は彼がなにをしようとしているのか見当もつかず、目を瞬かせるのみ。
声をかけるのもためらっていたら、板を抱えた青年は、そのまま庭を駆け出て、風のようにどこかへ行ってしまった。
(大変だ。早くしないと、宝物が灰になってしまう)
大吉は再び壁を上ろうとしたけれど、片手で青年に後襟を掴まれ、阻止された。
細身の引き締まった体型をしている彼だが、見た目より力は強く、大吉が手足をばたつかせても、その手は外れない。
「宝物が……放してください!」
大声で懇願する大吉に、青年は落ち着き払った声で問う。
「それはどこに置いてある、どのような品だ」
「文机の下にある桐箱です。文机は窓際にあります」
「親の形見でも入っているのか」
「違いますよ。もっとずっと大事なものです」
大吉は桐箱の中身を教えない。
秘密にしたいわけではなく、詳しく説明している暇がないのだ。
けれども青年は、大吉が隠し事をしたように捉えたようで、「気になる言い方をするな」と不満げな声で言う。
大吉が首を捻って青年に振り向けば、彼は眉間の皺を解いてニッと口の端を上げた。
「いいだろう、私が取ってきてやる。その代わり、宝物とやらの中身を確かめさせてもらうぞ」
「へ? 本当に取ってきてくれるのですか?」
「ああ。君は邪魔だ。退いていなさい」
青年は大吉を通りの近くまで下がらせると、自身は庭の中程に残り、奇妙な行動を取る。
右腕を目線の先にまっすぐに伸ばし、立てた親指と人差し指で、距離や高さを測っているような仕草をする。
指の先は、二階の窓や隣家の屋根に向けられていた。
それから彼はブツブツと計算式のような言葉を口にして、「三尺九寸、足りないな」と結論を出した。
次にリヤカーに歩み寄ると、側板を蹴り外して小脇に抱える。
大吉は彼がなにをしようとしているのか見当もつかず、目を瞬かせるのみ。
声をかけるのもためらっていたら、板を抱えた青年は、そのまま庭を駆け出て、風のようにどこかへ行ってしまった。