その日は雨意を少したりとも感じない、太陽の照り付ける日だった。
雨さんと出会ってから一ヶ月。最初は頻繁に会っていたものの、最近は雨が降る日の方が少なくなってしまった。
現在、大学は試験期間中。全国はそろそろ、梅雨明け。そのあとは?長い長い、夏休み。
雨の日が会える日ならば、雨さんと会う回数はもっと減っていく。夏場の台風で雨が降ったって、その時は大学も休校になるだろう。
そこで初めて、そういえば連絡先は何一つ知らないんだと気付く。
雨さんは自分のことを教えてくれて、少しずつ心を開いてくれているのに、億劫な俺はまだ連絡先が聞けていない。
次に雨さんに会った時は、連絡先を聞いてみようか。もう何十回と話した、それならば聞いても引かれないだろうか?
恋愛は今までだって勿論してきたが、有難いことにいつも相手からの強いアタックがあった。自分から行くことは今までない。それに、相手は雨さんだ。ますます、自分がどう動けばいいのか慎重になる。
それだけ、俺は雨さんに惹かれていた。この繋ぎ止めている糸を、切りたくなかった。大切にしたかったのだ。
そのようなことをぼうっとしながら構内を歩いていると、
「あっアキラくん!」
後ろからクリアな声が聞こえた。
それは間違えるはずがない、
「雨さん」
雨さんの声。
しかし、雨さんの雰囲気がいつもと違う、と感じるのは久しぶりに顔を見たからなのか。
「アキラくんはテストどう?」
「んー、まあまあかな。雨さんはどう?」
「私は今日のテストが大変だったの」
雨さんは少し俯く。その仕草で分かった。そうだ、雨さんはきっと睡眠不足なんだ。白い肌がいつもより白く見え、目の下は少しばかり重い。
そこで、俺はある提案を思いついた。
「雨さん!この後のテストで大変なの、ある?」
「えっと、そこまで大変なのはもうないよ」
「じゃあ、今からちょっと出かけよう」
「えっ?」
本は読むけど詳しくない。言葉の世界はまだまだ分からない。雨さんに似合う男になるにはまだまだほど遠い。
でも、言葉だけが全てでもない。
俺は元々外に出かけるのが好きだ。ならば、それを雨さんに見せて、魅了させればいい。
雨さんは興味深そうに何処へ行くのと訪ねてくるが、こういうのは内緒で連れて行ってあげるのがいいだろう。目的地を頑なに言わず、雨さんを連れて歩き出した。