「奈々、お前んち菓子とかある?」
 チャリに二人乗りをして家に向かっている途中、あづが首を傾げて言ってきた。
「ないと思う」
「じゃ、コンビニ寄るか!」
 楽しそうに笑ってあづは言う。
「でも、補導されるんじゃないか?」
「奈々は心配性だな。……この髪だし、どうせ平気だろ。病院抜け出してんのバレてたらマズいし、奈々は待ってていいぜ」
 コンビニにチャリを止め、あづは言う。
「わかった。あ、あづ」
「ん?」
「……水買ってきて」
「いいけど、体調わりぃの?」
「……頭痛いだけ。すぐ直ると思うし、平気」
「そうか。じゃ、すぐ買って来る!」
 それからあづは、三分もしないうちにポテトチップスやクッキーにジュースを買ってきた。もちろん、水も。
 俺は薬を口に入れ、ペットボトルのキャップを開けて水を飲んだ。
 それからニ十分くらいで、俺の家に着いた。

「……一軒家か」

「ああ」
 俺以外死んだのにまだ売り払われていない二階建の家。売り払われないのは、俺がいるからではない。親戚は姉や両親が住んでた家を売りたくないだけだ。俺のためなどでは、決してない。
 俺はズボンのポケットについてるチェーンを取り、それにかかった鍵でドアを開けた。
「階段上がったら一番手前にあんのが俺の部屋。先行っててくれ。俺、部屋行く前に行きたいとこあるから」
 玄関を上がったとこの右側にある階段を顎で示し、俺は言う。
「おう! じゃあ部屋で待ってる!」
 元気よく頷いて、あづは階段を上がろうとする。
「あっ、待ってあづ! ごめん! 俺の我儘に付き合わせて。本当にごめん!」
 あづの腕を掴み、慌てて頭を下げた。
「気にすんな! 明日二人で母さんに怒られようぜ」
 俺の頭を撫でて、あづは元気よく笑った。震えながら。それはまるで、叱られるのに怯えているかのように。
「あづ、お前、震えてないか?」
「……武者震いだ。ここまでヤバいことしたことないからな。大丈夫だ。叱られる覚悟ならできてる」
「アハハ! 叱られるのに覚悟とかいらないだろ!」
「……やっと笑ったな?」
 あづは歯を出し、得意げに笑う。
「えっ」
「お前、ずっとつまんなそうな顔してたぞ?」
 言葉に詰まった。
 無意識のうちにそうなっていたようだ。全然そんな風にしてたつもりないのに。