「だから、来んな。帰れ」
 翌日、また二人は来た。
「帰んねぇよ?」
「あづ、やっぱりもういいよ。せっかく助けてやったのにコイツお礼も何も言わねえし。常識がなってないんだよ。話すだけ時間の無駄だ」
 首を振って潤は言う。
 あづは目を見開く。
「お礼いわないから、常識がないからなんなの? 話しちゃいけねぇの?」
 今度は潤が目を見開いた。
「それは……っ」
 潤は言葉に詰まった。
「そんな決まりないだろ何処にも」
 その言い方はまるで、死んだ姉のようだった。
 ――なんだこいつは。
 ――何を言っている? 意味が分からない。
〝姉弟だってこと以外、仲良くする理由いる?〟 
 草加に女みたいな弟と仲良くして嫌じゃねぇのって言われた時に、姉が言った言葉を思い出す。家族でもないくせに、何でそんな言い方するんだよ……。
「話しちゃいけないとかじゃなくて、一緒にいてもつまんねぇだろ!」
 潤が叫ぶ。
「つまんないから、一緒にいちゃいけないのか?」
「もういい!」
 すねるように言い、潤は病室を出て行った。
「……追いかけなくてよかったのか?」
「あいつと俺親友だし、すぐ仲直りするから問題ない」
 首を振って、得意げにあづは言う。
「……あっそ」
 親友ね。
 昨日は冗談言い合ってたし、本当に仲良いんだな。断じて羨ましくはないが。
 翌日も、そのまた翌日も。あづは毎日のように病室に来た。潤は俺に邪険にされて気が滅入ったのか、あづと喧嘩したあの日以来来なくなったのにだ。本当になんなんだこいつは。
 邪険にしとけばそのうち来なくなると思った。それなのにあづは、来ないどころか、邪険にすればするほど早い時間から病室に来るようになった。
 知り合って二週間が経った頃には、平日にも土日にも朝からも来るようになった。学校があるハズなのにだ。
 平日は毎回朝からきてたわけではなかったが、一週間にある五日間の平日のうち三日は朝からきていた。
 親に叱られたらどうするんだと思ったが、それで来なくなるなら来なくなればいいと思い、俺は平日は来るなとは言わなかった。
 でも、それから一か月以上過ぎてもあづが来なくなることはなかった。