「あんたは死んだら幸せなのか? あんたは死ねたら喜ぶのか?」
 俺の胸倉を左腕で掴んで、男は叫んだ。
 その腕を掴んで、俺は叫び返そうとする。
「……ああ、そうだよ! 俺は生かせなんて頼んでない!]
 だが、間ができた。けれど、その理由は考えないことにした。
 自分は殺されなきゃいけない。――それ以外は許されないのだから。
「……お前、死にたいなんて思ってないだろ」
 予想外の言葉に目を見開く。
 ――死にたいと思ってないだって?
 「潤。あー、お前を助けた時、一緒にいた奴がいってたんだよ。高ければ高いほどリスクが高くなって、十五階以上だとほぼ確実に死ねるって。本当に死にたいなら、そうすんじゃねぇの?」
「……足場が悪かったから、それより低くても死ねると思っただけだ」
「じゃあわざわざ俺達の目の前に落ちたのは? 反対側でもなんなら隣のビルのもっと上の階でもよかったよな。その方が死ねた」
「それは……」
 探すのがめんどくさかったから、あそこにした。そのハズだった。実際めんどくさいと本気で思ってたハズなんだ。けれど、何故かそう言おうと思っても、声が出なかった。
 矛盾している。
 死に場所を探すのがめんどくさいから、死ぬのもめんどくさいのではなく、死にたいのに探すのはめんどくさいなんて。
 心の底から死にたいと思ってるなら、もっと確実に死ぬ場所を選ぶことだってできたのに。それな
のに、俺はそうしようとしなかった。
 めんどくさいとかではなく、たぶんまだ心のどこかで死にたくないと思っていたから。
「――目の前で死ねば、助けてくれると思ったんじゃないのか」