「そんなに言うなら、俺の力で社員にしてやろうか?」

「えっ。いや、それはダメ。そんなことしたらまた陰口言われちゃう。」

奈々の発言に、祐吾は眉根を寄せた。

「またって何だ?何か言われてるのか?」

「いや…あの…。」

しまったと奈々は口元を押さえたが、言わないと更に祐吾の怒りを買いそうだ。
仕方なく、正直に話す。

祐吾と付き合っていることが噂になっていること。
派遣社員のくせにと言われていること。
それが悔しくて堪らないこと。

「大丈夫だから」と明るく笑う奈々がどこか痛々しくて、祐吾は何とかしてやりたいと思ったが、すぐには何も思い付かなかった。

何が「俺の目の届く範囲にいやがれ」だ。
すぐ近くにいるのに無力な自分が情けない。
同じ社内にいるのに。

祐吾は不機嫌に黙った。
そんな祐吾を奈々も静かに見つめる。

しん…と時が過ぎていく。

重い空気を打ち消すかのように、奈々がポンっと手を叩いた。

「あ、あのね。全然話変わるんだけど…。祐吾さんはお祭り興味ない?」

「祭り?」

「うん、うちの地元でお祭りがあるんだけど、よかったら一緒に行きませんか?」

祐吾は祭りなんて学生以来行った記憶がない。
興味はあまりないが、せっかく奈々が誘ってくれているので行くことにした。

行く、と言えば奈々はすぐに笑顔になった。
単純なやつだな、と祐吾も笑った。