言われて、奈々は考えてみる。

これがやりたいという明確なものはなく、かといってキャリアアップしたい、というのも何となく違う。

「えっと…。」

と、奈々が言葉に詰まっていると、

「思い付きの転職ならやめとけ。」

祐吾は冷たく言い、一人リビングへ入っていった。

「ちょっと待って!」

祐吾を追いかけながら、奈々も抗議の声を上げる。

「何だ?」

「私だって祐吾さんみたいにしっかり働きたいの。」

「今はしっかり働いてないのか?」

「働いてるけど…でも…。ずっと派遣社員っていう雇用形態に負い目を感じてるの。派遣社員のくせにって言われるのが嫌なの。」

奈々は震えそうになる唇にぎゅっと力を入れて、

「祐吾さんに見合う彼女になりたいの。」

と、祐吾に訴えるように言った。

祐吾はふんっとバカにしたような態度でソファにどっかり座ると、

「ほんとにお前はどうしようもねーな。」

とそっぽを向いた。

奈々は泣きそうになる気持ちを必死に抑えながら、ただその場に立ち尽くした。