奈々は倉瀬の温かい胸に抱かれながら、頭の中では”好きだ”と言う倉瀬の声がリピートされていた。
まるで夢を見ているんじゃないかと、何度も倉瀬の温かさを確かめる。

欲しかった言葉が奈々を包んで、心ごと溶けてしまうのではないかと思った。

哀しみの涙はいつしか嬉し涙に変わり、やがて落ち着きを取り戻していった。

そうだ。
今なら渡せるかもしれない。
今なら、気持ちを伝えられるかも。

奈々は倉瀬の胸をぎゅっと押して、顔を上げた。
泣き腫らした真っ赤な目元は、倉瀬がそっと拭ってくれる。

「あの…。」

「なんだ?」

奈々はおもむろに鞄をごそごそとする。
もう渡すつもりもなく、むしろ捨ててしまおうと思っていたチョコは、奥深くに入りすぎて取り出すのに苦労した。
箱が潰れていなくてよかったと、ほっとする。

「これ。いつもありがとうございます。」

「俺に?」

奈々がコクンと頷くと、倉瀬は躊躇いもなく箱を受け取った。

「バレンタインのチョコってことだよな?」

倉瀬が一応確認すると、奈々は頬を真っ赤に染めてコクンと頷いた。

まさか奈々がバレンタインのチョコを用意していようとは夢にも思わず、倉瀬は嬉しさで思わず頬が緩んだ。