子供のように泣きじゃくり始めた奈々を、倉瀬はどうしていいかわからずとりあえず強引に自分の胸に押し付けて抱きしめた。

上手い言葉が浮かばず、ただその存在を確かめるかのように抱く。
思ったよりも華奢で小さくて、強く抱きしめたら壊れてしまいそうな程だった。

倉瀬の頬に触れる、奈々の髪がくすぐったい。
香水でもコロンでもない、シャンプーの優しいフローラルな香りが鼻をくすぐった。

奈々の返事なんていらない。
ほしいと思ったものは強引にでも手に入れる。
相手の意見なんて聞く耳持たない。

倉瀬はついさっきまでそんな考えだった。

倉瀬がちょっと優しくしてやると、女はコロッと落ちる。
来いと言えば嬉しそうにホイホイ付いてくる。
綺麗に着飾って化粧を施して、キラキラしながら上目遣いで甘えてくる。
それが別に嫌ではなかったし、一種のステータスでもあった。

だが奈々は、今までの女と全く違う。
倉瀬が優しさを見せても気付いてないのか反応が薄い。
来いと言ってもついてきやしない。
着飾って甘える姿なんて想像すらできなかった。

なのに、惹かれてしまった。

あの花が咲くような笑顔が、声が、倉瀬の心をざわつかせて仕方ない。

なかなか心を見せない奈々にやきもきする。
奈々の気持ちが知りたい。
倉瀬は心からそう思った。