奈々は祐吾の両親に会うのは初めてだった。
父親は勤め先の社長なので、社内報等で顔写真は見たことがある。

とにかく緊張して今も祐吾に笑われている。

「いい加減、落ち着け。」

「無理だよ。契約社員の面接より緊張する。」

強ばる奈々だったが、意外にも祐吾の両親にはすんなりと受け入れられた。

「あの祐吾がこんなに可愛いお嬢さんを!本当に祐吾で大丈夫かい?考え直すなら今だよ。」

「まあ~、娘ができるなんて嬉しいわぁ。」

「奈々さんのおかげで祐吾が丸くなったようだ。なあ、母さん。」

「本当よねぇ、性格も体型も。うふふ。」

祐吾の父も母も勝手なことを口々に言い、奈々は恐縮しきりだが祐吾は苦笑いするしかなかった。

「あ、あの、私、契約社員なんですが…。」

将来の社長とも言われる祐吾の妻になろうとする自分が契約社員ということに、奈々は引け目を感じていた。
祐吾は気にするなと何度も言ってくれたが、きちんと自分から話して祐吾の両親に認めてもらいたい。
そう思って話したのだが…。

「まあ~、立派に働いているのねぇ。奈々さん偉いわ!祐吾、見習いなさい。」

「俺も働いてるし…、いや、なんでもない。」

祐吾の母親はあっけらかんと笑い、奈々はまた恐縮するし祐吾もまた苦笑いで、すったもんだの倉瀬家への挨拶も滞りなく終わった。