年度末はいつだって忙しい。

派遣社員である西村奈々(にしむらなな)の所属する課に、この四月から新たに一人配属されることになった。

課の庶務業務全般を担当している奈々は、異動に関わる手続きや準備に追われていた。
パソコンの接続申請やチーム名簿の見直し、はたまたロッカーの手配まで、異動してきて困らないようにと準備することはたくさんあるのだ。
事前に手配しておくもの、異動後に手続きするもの等、それは多岐にわたる。
仕事以外の生活面、ゴミ箱の場所やプリンターの場所、ポットの使用ルール等は口頭で伝えなければならない。
それらを三月中に全部頭に叩き込んだ上で、あっという間に四月を迎えた。


奈々は異動してきた人物をチラリと見て小さく溜め息をついた。

異動してきたのはこの会社の社長の息子で、倉瀬祐吾(くらせゆうご)という。
将来的に社長になるため、数年毎に部署異動をして経験を積んでいるらしい、と奈々は人伝に聞いた。
今は一般社員と同等ということだったが、身なりはきちんとしていて高そうなスーツを纏っている。
それでいて容姿端麗ときた。

玉の輿を狙って言い寄る女は数知れず。
遊ばれた女も数知れず。

と、まわりから噂話がしょっちゅう聞こえてくる。
何が本当で何が嘘かはわからない。