4.ボクは最後の真実を暴く
真実を知らない限り、ボクの悩みが解決することはない、とカウンセラーは告げた。
真実を求めることでのみ、ボクの心は晴れるのだと、カウンセラーは述べた。
ならば、それを実践するまでだ。
ボクを導いてくれた、彼ならではの荒療治を。
「おい沁、こんな所で何する気だ?」
重治は、屋上の強風に煽られる髪を手で撫で付けたり、バサバサとはためく制服のすそを押さえたりしている。
かく言うボクも、ファスナー全開のジャージが翻るのを必死に手で押さえた。この荒れた天気は、今のボクらを象徴しているかのようだ。
見た目は綺麗な黄昏なのに、とにかく風が煽り立てる。
胸騒ぎ。
心の不安。
ざわめき。
どよめき。
動揺。
ない交ぜにされたグチャグチャな感情の渦が、ボクらをなぶる。逆撫でする。
見栄えだけ整えても、それは所詮、臭いものに蓋をしただけに過ぎないんだ。
その内実を、ボクは暴く――。
「重治が洸ちゃんを殺したのか?」
――ボクは単刀直入に質問した。
そう、これは質問だ。
追求でも糾弾でもない、単なる問いかけだった。
とにかく真実を聞きたかったから。決して重治を咎め立てするつもりはない。
ボクは重治を慕っている。敵視はしない。責める気もないし、仮に彼が自分の罪を認めたとしても、警察に行くかどうかは重治次第だ。
「ははっ。沁、何寝言ほざいてんだよ」
一笑に付された。
ちょっといつもと違う、引きつった表情だったけど、重治は一笑に付した。
こめかみに青筋が浮かんでいたけれど――。
「本当に違うと言い切れるのかい?」
ボクはさらに詰問する。
重治、もっと普段通りの笑顔を見せなきゃ安心できないよ。
そりゃあ君だって、あの晩のことを思い出すのは酷かも知れない。洸ちゃんの素姓や死亡があって、君自身も辛かったに違いない。
ただ。
だからこそ。
君がそんな、後ろめたさをごまかすような薄ら笑いを湛えるなんて、見て居られないんだよ。やめて欲しいんだよ。
隠し事をしているようにしか見えないじゃないか。
ボクと重治が何年付き合っていると思っているんだ? 君の心情や仕草、癖、態度、物腰、一挙手一投足がありのまま、君の感情をボクに伝えて来るんだよ。
ボクの心に、沁みるんだよ。
「違うに決まってんだろ沁。なんで俺を疑ってんだよ。何度も聞くな、しつこいぞ?」
重治はちょっと苛立たしげに、ボクを睨み返した。
ああ……。
ボクは小さくかぶりを横に振る。
(これは駄目だ)
それは重治が嘘をついて虚勢を張るときの身振りじゃないか。
威勢の良い性格を利用して声を荒げ、眼光をたぎらせて威嚇する。そうやって相手の言論を封じ込める。
君の悪い癖だよ。
確定――か。
「重治。あの晩の出来事は、些細な事故だったとボクは思うよ。警察も一顧だにせず、事故として処理したからね。世間的には何でもない些事なんだろう……けど」
「ならそれでいいじゃねぇか、掘り起こすなよ」
「けど、ボクたちや洸ちゃんのご両親にとっては、人生を変える一大事だった。それでいい、なんて到底言えないよ。今のは重治の台詞とは思えない。ボクの知っている幼馴染の台詞じゃない。何かを隠している、言い逃れの欺瞞だ」
「何だとこの――」
「だからボクはこの一ヶ月、ずっと心を痛めたし、心理相談もして来たんだ」
「心……理? よく判んねぇな、何が言いてぇんだよ沁」
いよいよ重治が不快感をあらわにした。
違う違う違う。
怒らないでくれよ重治。
図星を指されて逆上する君ではなく、事実無根だと明朗にいさめる君が見たいのに。
風が一段と強さを増した。
ボクの肩まで伸びた髪の毛が乱れる。
ファスナー全開のジャージが翻る。
もう手で押さえるのも面倒臭かった。
一歩ずつ、ボクは重治に歩み寄って行く。話を終わらせるために。
「重治は翌朝、指先に血の跡が付いていたよね? あれは洸ちゃんを窓から突き落とした際に、洸ちゃんの皮膚を引っ掻いたんじゃないか?」
「何ぃ?」
「恐らく君の爪には、洸ちゃんの皮膚片もこびり付いただろうね。ボクに指摘されてすぐ洗い落としてしまったから、今となっては確認しようもないけど」
「ハッ。誰の入れ知恵なんだか」肩をすくめる重治。「あれは夜中に俺がドアへ指先を挟んで出た血だって説明しただろうが! 朝になるまで気付かなかったんだよ!」
「君の指に血はあったけど、傷跡はなかった気がするよ?」
「お前が見逃してただけだろ!」
「おかしいよ。重治は夜中、ぐっすり熟睡していたんだよね?」
「!」
「熟睡しつつドアに指を挟んだのかい? 不思議な寝相だな」
「それは……っ」
重治の呂律が乱れた。
痛い所を突かれて罰が悪いときの顔をしている。
「重治の証言には矛盾があるんだよ。つまり、嘘をついている……ドアに指を挟んだのも嘘、夜中ずっと熟睡していたのも嘘。自分の罪をごまかすために取り繕ったら、こんな些末な矛盾点があぶり出されてしまった」
「そ、そんなもん言葉の綾だろ! 熟睡してたっつっても、トイレに起きるくれぇはするだろうが! そんときは窓の外にゃ気配なんてなかったし、事故死だって知る由もなかっただけで――」
「何とでも言えるよね。証拠はほとんどないんだから。でも、君の指先と、洸ちゃんの死体の引っ掻き傷を照らし合わせたらどうだろう?」
「は?」
「警察に行けば、洸ちゃんの死体写真が残されているはずだよ。死体そのものはもう火葬に出されてしまったけど、画像ならまだ保存されているだろう。重治の爪が、洸ちゃんの死体写真にある傷跡の一つと合致すれば、それが証拠にならないかな?」
「おいおい。警察に出頭しろって言うのかよ? いよいよ笑えねぇ冗談になって来たぞ」
重治の目が据わっている。
ああ、ますます駄目だ。
重治、それは的を射ていたときの反応じゃないか。
君はどんなに侮辱されても、それが虚実なら歯牙にもかけない大物だっただろう?
真に受けて怒り出すのは、事実を言い当てられた対応なんだよ……。
「沁、誰の差し金だ? 誰にそそのかされた?」
「差し金だなんて、とんでもない。さっき言った通り、ボクはスクール・カウンセラーに相談しただけだよ」
「カウンセラーだと? ふざけやがって、何吹きこまれたか知らねぇが、俺たちの長年の絆よりも、仕事で耳を貸すだけの大人を信用するのかよ!」
「長年の絆があるからこそ、重治の態度が嘘だと判るんだよ、皮肉にもね」
「…………!」
重治は何も言わなくなった。その代わり、今までボクに向けたことのない、鬼のような形相でこっちを見ている。
「翌朝、窓から転落死した洸ちゃんが発見されたけど、あの子は普段から体中を手で掻く癖があったから、重治の引っ掻き傷もその一つだと思われて、ろくに調べられず事故死だと断定された、というあらましだ」
「ざっけんなよ沁。お前まで俺を裏切るのかよ」
「裏切る? 違う、そうじゃない。ボクは真実を知りたいだけだ。ボクは自分の心さえ安定すれば満足なんだよ」
「黙れよ畜生。俺がどれだけ、お前らに目ぇかけてたと思ってんだ? どいつもこいつも俺の興を削ぎやがって。人をたばかって欺いてコケにして楽しいか? あ?」
「待ちなよ重治。洸ちゃんは決して欺こうとなんか――」
「欺いてただろうが! 実は男でしたぁ? ふざけんなっつーの! あいつの外見は俺好みな妹キャラだったんだよ! だから優しく接してやったんだよ! 幼馴染三人で両手に花、それが俺のステータスだったんだよ!」
両手に……?
「そうか、重治……そんな目で、君は見ていたのか。それが君の真実か……」
強風が吹き抜けた。
ファスナー全開のジャージがはためく。
友情じゃなかった。
絆じゃなかった。
最初から、重治は『異性像』として見ていたんだ。
「俺は、沁のことも好きだったぜ? 洸はオカマ野郎だったが、沁は違うもんな」
「…………ボクは」
全開のジャージが風でまくれ上がり、ボクの膨らみかけた胸が露になった。
「沁はずっとジャージ姿で判りにくいが、れっきとした『女』だもんな?」
そう――ボクは女だ。
制服姿ならまだしも、ずっとジャージだったからね。
肩まで伸びた髪も、自室に宝塚のポスターを貼るのも、男装の麗人の少女漫画ばかり読むのも、ボクが女でありつつも内なる男性像を抑えきれず、混濁していたからだ。
男女共用のジャージでうろつくのも、制服で性別を決め付けられるのが嫌だからだ。
初対面のナミダ先生に「口調がぎこちないね」と指摘されたのも、ボクが無理して男っぽく喋ろうとしていたからだ。
実際『ボク』という一人称が慣れず、泪先生に「堅苦しい言い方」だと見抜かれた。
性別が逆なだけで、洸ちゃんと同じ構造――。
(と言っても、ボクは女であることを自覚している。障害というほどではなく、単にボーイッシュなだけかも知れない……)
それに、ボクは洸ちゃんと約束したんだ。
あの子は男なのに女っぽくて、よくイジメられていた。染色体異常、性別違和。だからボクは、洸ちゃんを守るために――あの子の気持ちを分かち合うために――率先して洸ちゃんを守る『男』になろうと決意したんだ。
――沁、あたしっておかしいのかな?
――そんなことない! 君が女なら、ボクは男になるよ。誰にも文句は言わせない!
それが、きっかけ。全ての始まり。
一人称を『ボク』と名乗り、男っぽくなった発端だ。
「沁、俺は好きだぜ? 男勝りなボクっ娘、いいじゃねぇか。中学以降、制服でスカートを穿き始めたときは笑っちまったが、なかなか似合ってたぜ? また着てくれよ」
「からかうなよ。ボクは君を見損なった。重治がそんな目でボクたちを見ていたなんて、心の底から見下げ果てた」
「なんでだよ? 思春期に男女が異性を意識するのは当たり前だろ? 俺はお前を妹のように可愛がってやったんだぜ?」
シスター・コンプレックスか。
結局、カウンセラーの言い分通りに帰結するのか。
「悪いけど、重治との付き合いはこれっきりにさせてもらうよ」
「あぁん?」
「ボクは女だけど、性格は男っぽいし、重治を異性としては見られない。そもそもボクは今、保健室の湯島泪先生が好きなんだ」
体が女でも、心が男性像を投影するから。
ボクは異性に奥手なんだ。
同性を好きになってしまう。
いや――憧れてしまう?
自分が女になりきれない分、きちんと女性をまっとうしている姿に、惚れてしまうんだろう。
ボクは踵を返した。
ジャージの中で胸が弾む。
「おい、待てよ――」
重治が大股で追いかけて来た。
床越しにズカズカと振動が伝わり、すぐそこまで迫る。
ボクが屋上のドアノブを握ろうとしたとき、肩を掴まれた。強引に言い寄られる。
「重治、離せ」
「ふざけんな、逃がすかよ――ふがっ!」
凄んだ重治が、最後まで言い終えることはなかった。
眼前のドアが内側から押し開かれ、誰かが屋上へ躍り出たんだ。開いたドアは重治の顔面を痛打して、みっともなく引っくり返らせる。
「やぁ、無事かい?」
「……カウンセラーさん!」
現れたのはスクール・カウンセラーで、左手のステッキをくるくると振り回しながら、左の義足で重治を踏み付けた。
「おっと、気付かなくて踏んでしまったよ。よくある、よくある」
いや、わざとでしょ、それ。
抜群のタイミングで登場してくれたけど、狙っていたのかな?
というか、ずっとボクらの様子を観察していたのか?
「君の帰りが遅いから、探してたのさ。もう日も暮れて、みんな下校する時間だからね」
「本当ですかぁ?」
訝るボクの視線も、カウンセラーは涼風のように受け流してしまう。
足蹴にされていた重治が、ふらふらと上体をひねり起こした。
「こ、この野郎、いきなり何しやがん――んぎゃっ!」
立ち上がった瞬間、今度はカウンセラーのステッキが重治の足をすくい上げる。
棒術……いや、杖術か?
ステッキを支点に、てこの原理で再び転倒させられた重治は、のたうち回った挙句に今度こそ戦意を失った。がくりと脱力したかと思うと、その場で白目を剥いている。
「か、カウンセラーって強いんですね」
「ちょっとした護身術さ。義足の生活に慣れて久しいから、ステッキが宝の持ち腐れにならないよう、いろいろ試行錯誤してるんだよ。あるある」
いや、ないよ。普通ないよ。
何なんだこの学校は……。
ボクは足下の重治と、そばに立つカウンセラーとを交互に眺めて、今後の苦労を思い描いて溜息をついた。
*
――よし。
事件が一段落した所で、ボクは泪先生に気持ちを告白しようと決心した。
何せ、屋上で重治と対峙したときに、言ってしまったからね。
ボクは保健室の湯島泪先生が好きなんだ、って。
奴のことだから、ボクの秘めたる想いを言いふらすなんて姑息な真似はしないと思うけど、何かの間違いで泪先生の耳に入ってしまう危険がなくはない。
なら、先手を打つしかない。
当たって砕けろだ。
どのみち、もともと勝ち目なんてなかったんだ。まだ泪先生と知り合って一ヶ月も経っていないし、教員と生徒の間柄だし……すっぱりフラれて後腐れをなくした方が良い。
傷は浅いうちに消しておくべきなんだ。うん。
それに――。
(それに、恐らく泪先生はノーマルだしなぁ。同性から告白されても嬉しくないだろう)
そんな負い目も、もちろんある。
性別の壁。
ボクも洸ちゃんも、このことを真剣に悩んでいた。でも重治はボクたちに目をかけてくれたと信じていた……それはとても幸せだったのに、彼の本音は、ボクを落胆させた。
重治に裏切られ、泪先生にフラれることで、ボクは生まれ変われる気がする。
過去の自分と、決別できる気がする。
新しい人生をスタートできると思うんだ。
「失礼します」
保健室の引き戸を、ガラリと開けた。
見慣れた保健室、リノリウムの床と薬品の匂い。
デスクに向かう泪先生。
「ん~? また来たのね、渋沢沁ちゃ~ん?」
泪先生が、椅子を回転させてボクに向き直った。
ち、ちゃん付けですか……。
何か恥ずかしいな……。
ボクは敷居を恐る恐るまたいで――今日はジャージではなく制服のすそを押さえながら――泪先生の眼前まで一直線に歩く。告白には正装で臨むべきだろう?
「あら、制服姿に戻ったの~?」目を丸くする泪先生。「何か重大な用事でもあるの?」
「告白したいことがありますっ」
「ガチガチに固まっちゃってるよ~? 何、何?」
「えっと、あの、その、同性で気持ち悪いと思われるかも知れないんですけど、ボクは体こそ女だけど、心は男っぽくて。だから、泪先生のことが好きなんです。保健室に通い始めた瞬間から、ずっと心を魅かれていました」
「あ~、うん、そういうことかぁ」
泪先生が苦笑している。
ああ、やっぱり困っている様子だ。どうしよう、どうしよう……。
「きっと沁ちゃんは『ディアナ・コンプレックス』なのかもね~」
「はい? ディアナ?」
「ディアナはギリシャ神話に登場する、狩猟の女神なの。女性でありながら男性顔負けの腕前だったから『男性的に生きようとする女性の心理』という意味で使われるわね~」
泪先生も養護教諭なだけあって、心理学の基礎知識はあるみたいだ。
「ボクが……ディアナ……」
「性同一性障害ほど深刻じゃないけど、男勝りな性格だったり、異性に奥手で独身を貫いたりと言った事例が多いわね~」
なるほど、確かにボクっぽい。
もともとボクは洸ちゃんのために『男の振り』をしただけだから、本格的な障害ではなかったんだ。
「じゃあ、ボクの告白は――」
「あいにくだけど~、私は駄目よ」
案の定、爆死した。
玉砕完了。
残念だけど、スッキリしたよ。
「はい……駄目な理由、出来れば教えていただけますか」
「駄目と言っても、それは先生だからとか同性だからとかじゃなくて~……もっと別の理由があるのよね~」
「別の理由?」
「私には先約が居るからね~」
先約?
ああ……あのカウンセラーか。
「|ナミダ先生のことですか? あのスクール・カウンセラー……苗字が同じ『湯島』でしたもんね。やっぱりご夫婦なんですね」
「ファッ? 夫婦っ? えへへ~、そう見える? ね、やっぱりそう見えちゃう~? きゃっ、夫婦だって。きゃっ」
唐突に一人で黄色い声を上げ始めた泪先生に、ボクは違和感を覚えた。
何だ、このリアクション?
「ん? 違うんですか、泪先生?」
「だって私たち、双子の兄妹だも~ん」
…………。
…………。
「え? ええええええええっ!」
たまげた。
ぶっ飛んだ。
のけぞって、たたらを踏んで、引っくり返りそうになった。
「は? 兄妹? だから苗字が同じだったんですか!」
「そゆこと~」
ボクの勘違いだったのかよっ。
「で、でも、兄妹にしてはスキンシップが激しかったりして、仲が良すぎませんか?」
「そりゃそ~よ。私は、お兄ちゃん大好きな『ブラザー・コンプレックス』だもん」
あ、ああ……。
ここにも居たのか、ブラコンの心理を持つ者が。
というか、ここの伏線だったのかよ、ブラコンって。
ナミダ先生がぽつりとこぼした『身近な例』って、泪先生のことだったのか。
あの人も、いろいろ背負っているんだな……。
「私ね、高校生の頃、車に轢かれそうになったことがあるんだけど~……そのとき颯爽とお兄ちゃんが現れて、身代わりになって助けてくれたの」
「へぇ……それで、ナミダ先生に愛情を抱くようになった、と?」
「そ~なの! お兄ちゃんはその事故で左足首を欠損しちゃったのよ~。だから、あの義足は私にとって勲章であり象徴なのよ! お兄ちゃん大好き!」
「義足には、そんな秘密があったんですね」
ボクはようやく納得できた。
合点が行った、と言うべきか。
ナミダ先生の義足に秘められた経緯は、泪先生が惚れるに足るものだ。体を張って家族を守る……そんなの、ボクなんかじゃ逆立ちしても勝てっこない。
「だから~、私はお兄ちゃんの正妻にはなれないけど~、内縁の妻って自称してるの!」
「自称、ですか」
とてつもなく虚しい自己主張に、ボクは憐憫を禁じ得ない。
でも、そこに宿る『想い』は理解できた。
(――みんな、叶わぬ恋に身を焦がしている)
報われぬと知りながら、それでも一途に想いを伝えようとしている。
世間的には異常でも、それを希う理由がある。重みがあるんだ。あるある。
(心って、複雑だな)
でも。
だからこそ、心は面白い。
なんてことを胸に沁みつつ、ボクのちょっぴり歪んだ新学期が幕を開けた。
*
――第一幕・了
・使用したよくあるトリック/性別誤認トリック
・心理学用語/アニマ・アニムス、ブラザー・コンプレックス、シスター・コンプレックス、性同一性障害、ディアナ・コンプレックス