加波子は目を覚ます。目は半分しか開かない。加波子はひどく疲れていた。ぼんやりする時間が続く。
扉の開く音がした。女性が近寄ってくる。加波子は目だけを動かす。
「目、覚めましたか?ここは病院ですよ。安心してくださいね。」
その女性は加波子にやさしく言った。
「病院…。」
加波子はぼやいたが、声があまり出ていない。加波子は、さっきの女性は看護師で、今自分は病院のベッドの上だということがわかった。疲労と目眩。加波子は目を閉じ、再び眠る。
時々食事が運ばれてくるが、加波子は一切、手をつけない。食欲などなかった。
加波子の意識がほんの少しずつはっきりしてくる、何か忘れている、大きなことを。何か足りない、大きなものが。そして出た名前。
「…亮…。」
看護師が来る度に加波子は聞く。
「ここに、平野亮って人いませんか?」
「ヒラノ…リョウ…さん。確認しますね。」
どの看護師もいつも決まって答える。『確認します。』『待っていてください。』それしか言わない。加波子に苛立ちが溜まる。
食事が運ばれてきた。加波子は手をつけない。加波子は顔色が悪くなり、体力も減っていくばかりだった。しかし苛立ちは増すばかり。限界だった。
ある時、婦長と呼ばれる人が来た。
「あら、また食べてないのね。元気になれないわよ?」
呑気に見えた婦長に加波子は噛みつく。
「亮は!どこにいるんですか?どうして誰も何も言ってくれないんですか?何か隠してるんですか?何を隠してるんですか!」
騒ぎを聞いた看護師が部屋に入ってくる。婦長は至って冷静だった。
「今はあなた自身の体を休めて、元気になることを考えてちょうだい。」
婦長の冷静さに対し、加波子はさらに苛立つ。加波子は婦長の腕を掴み揺らす。
「いい加減にしてください!どうして?どうして何も教えてくれないの?どうして?!」
加波子は涙を浮かべながら訴える。
「落ち着いてちょうだい、あなたはね…。」
婦長が何か言いかけた瞬間。
「何も教えてくれないなら…。」
加波子はベッドの上に立ち、カーテンを開け、大きな窓を全開にする。冷たい風が加波子の髪をなびかせる。
「お止めなさい!」
婦長は声を張る。
「これから親になろうって人が、なんて様ですか!」
「…親…何の話ですか…。」
加波子はボソッと、生気のない声を出す。そして窓枠に足を掛けた。
「あなたは妊娠してるの!」
婦長が叫ぶ。加波子は止まる。生気のない声で呟く。
「…妊娠…。」
ふらついた加波子を看護師が支え、元の位置へと移動させる。加波子は目も生気がなかった。
「よく聞いてちょうだい。あなたはね、妊娠してるのよ。今、3ヶ月。とても大事な時期なの。父親はきっと彼ね?彼もきっと頑張ってるはずだわ。」
加波子は生気のない目をして婦長に問う。
「彼…亮は…生きてるんですか…?」
「彼は今、外科の集中治療室にいるわ。2日間、眠ったままなの。…彼が目覚めたら、全てをあなたに話すつもりでいたの。」
婦長の言葉を聞き、目眩がする加波子。情報の処理が追い付かない。頭が重くなる。
「彼に…会えませんか…?」
婦長は優しく答える。
「そう言うと思ったわ。外科に連絡してみるから、あなたは安静にしてるのよ。」
「はい…。」
婦長は出ていき、看護師が加波子の肩をさする。
「何かあったら、いつでも呼んでくださいね。」
そう言って看護師も病室を出ていった。
ひとりになった加波子。少し目眩が残っていたが、婦長の言葉を思い返す。頭に吸収されるまで何度も。生気が少しずつ戻ってくる。しかし視界は涙でぼやけていた。
「亮…生きてた…。亮…赤ちゃん…。」
扉の開く音がした。女性が近寄ってくる。加波子は目だけを動かす。
「目、覚めましたか?ここは病院ですよ。安心してくださいね。」
その女性は加波子にやさしく言った。
「病院…。」
加波子はぼやいたが、声があまり出ていない。加波子は、さっきの女性は看護師で、今自分は病院のベッドの上だということがわかった。疲労と目眩。加波子は目を閉じ、再び眠る。
時々食事が運ばれてくるが、加波子は一切、手をつけない。食欲などなかった。
加波子の意識がほんの少しずつはっきりしてくる、何か忘れている、大きなことを。何か足りない、大きなものが。そして出た名前。
「…亮…。」
看護師が来る度に加波子は聞く。
「ここに、平野亮って人いませんか?」
「ヒラノ…リョウ…さん。確認しますね。」
どの看護師もいつも決まって答える。『確認します。』『待っていてください。』それしか言わない。加波子に苛立ちが溜まる。
食事が運ばれてきた。加波子は手をつけない。加波子は顔色が悪くなり、体力も減っていくばかりだった。しかし苛立ちは増すばかり。限界だった。
ある時、婦長と呼ばれる人が来た。
「あら、また食べてないのね。元気になれないわよ?」
呑気に見えた婦長に加波子は噛みつく。
「亮は!どこにいるんですか?どうして誰も何も言ってくれないんですか?何か隠してるんですか?何を隠してるんですか!」
騒ぎを聞いた看護師が部屋に入ってくる。婦長は至って冷静だった。
「今はあなた自身の体を休めて、元気になることを考えてちょうだい。」
婦長の冷静さに対し、加波子はさらに苛立つ。加波子は婦長の腕を掴み揺らす。
「いい加減にしてください!どうして?どうして何も教えてくれないの?どうして?!」
加波子は涙を浮かべながら訴える。
「落ち着いてちょうだい、あなたはね…。」
婦長が何か言いかけた瞬間。
「何も教えてくれないなら…。」
加波子はベッドの上に立ち、カーテンを開け、大きな窓を全開にする。冷たい風が加波子の髪をなびかせる。
「お止めなさい!」
婦長は声を張る。
「これから親になろうって人が、なんて様ですか!」
「…親…何の話ですか…。」
加波子はボソッと、生気のない声を出す。そして窓枠に足を掛けた。
「あなたは妊娠してるの!」
婦長が叫ぶ。加波子は止まる。生気のない声で呟く。
「…妊娠…。」
ふらついた加波子を看護師が支え、元の位置へと移動させる。加波子は目も生気がなかった。
「よく聞いてちょうだい。あなたはね、妊娠してるのよ。今、3ヶ月。とても大事な時期なの。父親はきっと彼ね?彼もきっと頑張ってるはずだわ。」
加波子は生気のない目をして婦長に問う。
「彼…亮は…生きてるんですか…?」
「彼は今、外科の集中治療室にいるわ。2日間、眠ったままなの。…彼が目覚めたら、全てをあなたに話すつもりでいたの。」
婦長の言葉を聞き、目眩がする加波子。情報の処理が追い付かない。頭が重くなる。
「彼に…会えませんか…?」
婦長は優しく答える。
「そう言うと思ったわ。外科に連絡してみるから、あなたは安静にしてるのよ。」
「はい…。」
婦長は出ていき、看護師が加波子の肩をさする。
「何かあったら、いつでも呼んでくださいね。」
そう言って看護師も病室を出ていった。
ひとりになった加波子。少し目眩が残っていたが、婦長の言葉を思い返す。頭に吸収されるまで何度も。生気が少しずつ戻ってくる。しかし視界は涙でぼやけていた。
「亮…生きてた…。亮…赤ちゃん…。」