街はバレンタインで騒いでいる。そんな頃。

「申し訳ありませんでした。」

 加波子は部長に深く頭を下げている。席に着く加波子は少し疲れていた。隣から友江が声をかける。

「どうしたの?あんたが仕事でミスするなんて。熱でもあるんじゃないの?」
「あ…そういえば最近熱っぽいんですよね…。でも先輩には迷惑かけないように頑張りますから、大丈夫です!」
「私のことはいいから、早く治しなさいよ!」

 加波子は体調を崩していた。

 バレンタインの日。加波子の部屋のテーブルには、デパートで買ったチョコレートの紙袋。亮が来る。

「ごめんなさい。本当はケーキ焼いたり色々したかったんだけど、なんか力が出なくて。」

 加波子はテーブルに、気だるそうに寄り掛かっている。そんな加波子の背に亮は手を当てる。

「そんなことどうだっていい!それよりお前大丈夫か?具合悪いとは聞いてたけど…。お前がそんなに体調崩すの初めてだろ。病院行ったか?」
「病院に行くほどでもないの。多分、軽い風邪か、軽い胃腸炎…。それがちょっと長引いてるだけだと思う。だから大丈夫。ありがとう、亮。」

 そう加波子が言うと、亮は心配そうに加波子の頭をなでる。やさしい目で、いつもの目で、いつもの亮で。安心する加波子。ホッとした加波子の表情を見た亮が言う。

「やっぱり病院へ行こう。俺も一緒に…。」

 加波子はクリスマスに贈った亮のニットを引っ張る。

「いいの。それより今…そばにいて。」

 どこかぼーっとしている加波子の目。

「お前、布団入れ。」

 亮は加波子を布団に寝かせる。そして亮も布団に入る。布団を掛ける。

「寒くないか?」
「うん。亮がいるからあったかい。」

 ふたりは向き合う。手を顔の前で握り合う。

「今日はずっとこうしていよう。」

 加波子は素直に甘えた。やさしい亮と、ずっと一緒にいたかった。

「うん。ありがとう、亮。」
「無理すんな。」