そして大晦日を迎える。

 加波子の部屋。ふたりは年越しそばを食べた後の布団の中。息がまだ落ち着いていないにもかかわらず加波子は言う。

「亮!テレビつけて!」
「何だよ、急に…。」

 亮は加波子に従い、めんどくさそうにテレビをつける。まだ年は越していなかった。それがわかった加波子は安心する。

「よかった、間に合った…。」
「なに安心してんだよ。その割には…。」
「なに?」

 何もわかっていない加波子。呆れながら亮は笑う。

「何でもねぇよ。」

 そして年が明ける。新しい年になった。

 ふたりは同じ布団の中、一緒に年を越した。

「亮?」
「ん?」
「亮、明けましておめでとう。」
「おめでとう。」
「今年もよろしく…って、言っていいかな…。」

 控え目に言う加波子。そんな加波子がとても愛らしく思った亮。亮は加波子の頭をポンポンとやさしくたたいた。笑顔になる加波子。次の瞬間。

「亮!初詣行こ!」
「は?!」
「近くに小さいけど神社があるの!行こ!」
「明日でいーだろ…。」
「もう明日になった!早く服着て!」

 亮は加波子のなすがままだった。加波子の言う通り、近くに小さな神社があった。人も何人かいる。

 ふたりはお参りをする。加波子は心を静める。そして願う。願い事は決まっていた。亮のことだった。

 『亮が無事で、怖がらせるものが何もなくて、平穏に過ごせますように』

 加波子の願い事が終わり、振り返ると亮は既に待っていた。

「寒いから帰るぞ。」

 お参りからふたり手をつないで帰る帰り道。

「お前、何お願いしてたんだ?随分長かったな。」
「内緒。でも…亮が教えてくれたら教えてあげる。」
「じゃあ俺も内緒。」
「けち!教えてよ!」
「教えねぇよ。それより早く帰ろうぜ。」

 アパートに帰る。部屋は暖かいが、体はすぐには温まらない。

「お前、シャワーは?」
「もう少し体が温まったら浴びる。亮、先いいよ。」

 亮はシャワーを浴びながら、さっき願った自分の願い事を噛みしめていた。

 亮が部屋に戻ると、加波子は床に横になっていた。寝てしまったようだ。亮はしゃがみ、そっと声をかける。

「おい、起きろ。」

 亮は加波子の肩を少し揺する。

「起きろ、風邪ひくぞ。」

 加波子は反応しない。

「はしゃぎすぎだ、バカ。」

 亮は加波子の前に座る。そして呟く。

「…さっき願ったんだ…お前を守り抜けますようにって。」

 亮は加波子の髪に触れる。誓うように囁く。

「守るよ、お前のこと。必ず。だから加波子…。」

 亮は加波子が起きないよう、そっと頭にキスをする。

「今年もよろしく…。」

 加波子はすやすや眠っている。