亮のアパートへ着く。スーパーで買ったお弁当をふたり仲良く食べる。
食後のコーヒー。加波子は気になっていた亮の意外な一面のことを思い切って聞いた。
「…亮は子供、好きなの?」
亮は表情を変えずに答える。
「養護施設にいたから、子供の扱いには慣れてるのかもな。」
それを聞いた加波子は何も言わなかった。
亮は過去の話をしない。当たり前のことだと思っていた加波子は、亮に何も聞くことはなかった。もちろん、話してくれたら聞くつもりでいた。しかしその時、加波子はさらに聞いた。
「寂しかった?」
亮の表情は変わらない。
「そういうもんだと思ってた。」
続けて加波子は聞く。
「今は?」
亮は加波子を見る。ドキッとする加波子。
「今は騒がしくてそれどころじゃねぇよ。」
加波子は嬉しくなった。笑みを浮かべていることを隠すように、加波子は少し下を向く。その目線の前に、ひとつの鍵が置かれる。何だろうと加波子はじっと見ていた。
「この部屋の鍵。」
亮が言った。加波子はまだじっと見ている。そして気づく。
「合鍵…。」
「むやみに使うなよ。」
加波子は鍵を手に取り少し見る。そして急いで自分のキーケースにしまう。キーケースの中の鍵が1本増え、帰る場所がひとつ増えた。
「聞いてるか?」
「…聞いてる…ありがとう、亮…。」
鍵から目が放せないでいる加波子。涙をこらえていることも隠すように、加波子は少し横を向く。
笑みも涙も、それを隠すどの加波子も、亮は気づいていた。そんな加波子に亮はやさしく言う。
「お前は笑ったり泣いたり、忙しいな。」
「そんなこと…!ないもん…。」
ふたりは目を合わせ笑い合った。
翌日。亮は仕事が終わってアパートに着くと部屋の灯がついていた。すぐにドアを開ける。
「おかえりなさい。」
笑顔で迎える加波子。テーブルを前にちょこんと座っている。
「お前、むやみに使うなって…。」
亮は見つける。それはキッチンに置かれていた。ピカピカのやかん、スプーン、真っ白なマグカップふたつ、ミルク、砂糖。
「今日もお弁当買ってきちゃった。こっちが亮、こっちが私。食べよ。」
食事が終わった後、亮は何も言わずピカピカのやかんに水を入れ、コーヒーの入った真っ白なマグカップと、加波子のためにミルクと砂糖を持ってきた。
「ありがとう。」
加波子は笑顔で受け取る。加波子に礼の言葉など必要ない。亮はいつも加波子をそっと受け止める。受け止めてくれる。それがちゃんとわかるからだ。何も言わず、やかんもカップも使ってくれる。それがその証拠だ。それが亮、亮のらしさだ。
加波子は唐突に言う。
「ねえ、亮。今度私のことも肩車して!」
「あーお前なら小さいからできるかもな。」
「小さいは余計!」
「こっち来い。してやるよ、肩車。」
「え?ここで?」
笑う加波子の腕を亮は引っ張る。亮の胸に加波子の頭がトンっと当たった。加波子はさりげなく聞く。
「コーヒー…、おいしい?」
「うまい。」
「よかった。」
亮はそのまましばらく加波子を抱きしめていた。今日の礼の代わりとして。それに何となく加波子は気づいた。亮は加波子のあごを上げキスをする。
「亮、コーヒーの味がする。」
もう一度キスをする。もう一度。もう一度とキスは止まらない。
「亮、コーヒー冷めちゃうよ?」
「また入れればいい。ちなみに、ここの壁は薄いからな。」
甘くて苦い味の夜。
食後のコーヒー。加波子は気になっていた亮の意外な一面のことを思い切って聞いた。
「…亮は子供、好きなの?」
亮は表情を変えずに答える。
「養護施設にいたから、子供の扱いには慣れてるのかもな。」
それを聞いた加波子は何も言わなかった。
亮は過去の話をしない。当たり前のことだと思っていた加波子は、亮に何も聞くことはなかった。もちろん、話してくれたら聞くつもりでいた。しかしその時、加波子はさらに聞いた。
「寂しかった?」
亮の表情は変わらない。
「そういうもんだと思ってた。」
続けて加波子は聞く。
「今は?」
亮は加波子を見る。ドキッとする加波子。
「今は騒がしくてそれどころじゃねぇよ。」
加波子は嬉しくなった。笑みを浮かべていることを隠すように、加波子は少し下を向く。その目線の前に、ひとつの鍵が置かれる。何だろうと加波子はじっと見ていた。
「この部屋の鍵。」
亮が言った。加波子はまだじっと見ている。そして気づく。
「合鍵…。」
「むやみに使うなよ。」
加波子は鍵を手に取り少し見る。そして急いで自分のキーケースにしまう。キーケースの中の鍵が1本増え、帰る場所がひとつ増えた。
「聞いてるか?」
「…聞いてる…ありがとう、亮…。」
鍵から目が放せないでいる加波子。涙をこらえていることも隠すように、加波子は少し横を向く。
笑みも涙も、それを隠すどの加波子も、亮は気づいていた。そんな加波子に亮はやさしく言う。
「お前は笑ったり泣いたり、忙しいな。」
「そんなこと…!ないもん…。」
ふたりは目を合わせ笑い合った。
翌日。亮は仕事が終わってアパートに着くと部屋の灯がついていた。すぐにドアを開ける。
「おかえりなさい。」
笑顔で迎える加波子。テーブルを前にちょこんと座っている。
「お前、むやみに使うなって…。」
亮は見つける。それはキッチンに置かれていた。ピカピカのやかん、スプーン、真っ白なマグカップふたつ、ミルク、砂糖。
「今日もお弁当買ってきちゃった。こっちが亮、こっちが私。食べよ。」
食事が終わった後、亮は何も言わずピカピカのやかんに水を入れ、コーヒーの入った真っ白なマグカップと、加波子のためにミルクと砂糖を持ってきた。
「ありがとう。」
加波子は笑顔で受け取る。加波子に礼の言葉など必要ない。亮はいつも加波子をそっと受け止める。受け止めてくれる。それがちゃんとわかるからだ。何も言わず、やかんもカップも使ってくれる。それがその証拠だ。それが亮、亮のらしさだ。
加波子は唐突に言う。
「ねえ、亮。今度私のことも肩車して!」
「あーお前なら小さいからできるかもな。」
「小さいは余計!」
「こっち来い。してやるよ、肩車。」
「え?ここで?」
笑う加波子の腕を亮は引っ張る。亮の胸に加波子の頭がトンっと当たった。加波子はさりげなく聞く。
「コーヒー…、おいしい?」
「うまい。」
「よかった。」
亮はそのまましばらく加波子を抱きしめていた。今日の礼の代わりとして。それに何となく加波子は気づいた。亮は加波子のあごを上げキスをする。
「亮、コーヒーの味がする。」
もう一度キスをする。もう一度。もう一度とキスは止まらない。
「亮、コーヒー冷めちゃうよ?」
「また入れればいい。ちなみに、ここの壁は薄いからな。」
甘くて苦い味の夜。