ふたりはそのまま同じ布団の中。加波子は左、亮は右。ふたりは天井を見ている。息はすっかり落ち着いていた。加波子は問い出す。
「どうして面会、拒否したの?」
亮は答えない。
「手紙、ちゃんと見てくれてた?」
亮は答えない。加波子は最後の質問をする。
「どうして今日、ここに来たの?」
やはり亮は何も言わない。加波子は目を閉じ、ため息をする。すると亮は起き上がり、自分のジャケットを手繰り寄せた。加波子も起き上がる。亮はポケットの中に手を入れ、何かごそごそしている。そして何かをテーブルの上に置いた。それは小さな小さな何か。亮がやっと口を開く。
「所持品。残ってて安心した。」
亮が何のことを言っているのかわからない加波子。とりあえずテーブルの上に置かれた小さなものをそっと手に取る。それは固く黒ずんでいて、それ以上のことは何もわからなかった。亮は説明する。どこか寂しそうな背中で。
「あの夜…、お前が作ったおにぎりを包んでたラップ。食べ終わった後、なぜかポケットにしまったんだ。」
ぶっきらぼうな亮が言う。ぶっきらぼうに。
「それが俺の気持ちの証明に、ならないか…?」
凝視し固まる加波子。口も体も全く動かない。
「…やっぱりだめか。」
「違う、だめなんかじゃ…。」
亮は体を少しずつ加波子に向ける。そんな亮に加波子は必死に訴える。
「本当は、すごく嬉しいの!すごくすごく嬉しいの!泣きたいくらい嬉しいのに、なのに、涙が出ないの…。」
加波子から勢いが消える。意識が白くなってくる。
「あのニュースを見た時から、ずっと泣かないように我慢してきたから…。泣き方忘れちゃった…。こんな時、どうしたらいいんだっけ…。」
悲しい目をした加波子は体も呼吸も震え出す。亮は加波子の腕を掴む。
「おい。しっかりしろ。」
加波子には聞こえない。震え続けている。
「ねえ、どうしたらいい?私どうしたらいいの…?ねぇ…。」
加波子は亮の胸元に手を当てる。その手も震えていた。亮は強く加波子を抱きしめる。震えが止まるように強く。加波子の瞳は涙で潤んでいた。
「もういい。充分だ。もう何も我慢しなくていい。悪かった。」
その瞬間、加波子の瞳から大粒の涙がこぼれた。
加波子は泣き始める。大きな声を出して。まるで子供のように。その間、亮はずっと加波子を抱きしめていた。
「お前、体冷えてきた。入ろう。」
亮は加波子に布団をかける。ふたりで布団に入る。向かい合い、見つめ合う。加波子は呼ぶ。
「亮…?」
「なんだ?」
「久しぶりに言った、『亮』って。会いたくなるからずっと言わなかったの。」
亮は天井を向く。
「俺は、何も信じてねぇけど祈ったよ。11月21日。月が見えた。祈りなんてよくわかんねぇけど、祈ったんだ。」
亮は加波子のために祈っていた。ふたり同じ時に同じ月を見ていた。
「だから今まで私、持ちこたえられたんだ…。」
亮がいなくなった日から今日までの日々が、加波子の頭に走馬灯のように浮かんだ。
「亮、こっち見て。」
再びふたりは見つめ合う。
「…亮…。」
加波子は亮で満ち溢れていた。そして亮を欲する目。
ふたりは愛し合う。これ以上ないほど愛し合った。離れていた時間、それ以上を埋めるかのように。
「どうして面会、拒否したの?」
亮は答えない。
「手紙、ちゃんと見てくれてた?」
亮は答えない。加波子は最後の質問をする。
「どうして今日、ここに来たの?」
やはり亮は何も言わない。加波子は目を閉じ、ため息をする。すると亮は起き上がり、自分のジャケットを手繰り寄せた。加波子も起き上がる。亮はポケットの中に手を入れ、何かごそごそしている。そして何かをテーブルの上に置いた。それは小さな小さな何か。亮がやっと口を開く。
「所持品。残ってて安心した。」
亮が何のことを言っているのかわからない加波子。とりあえずテーブルの上に置かれた小さなものをそっと手に取る。それは固く黒ずんでいて、それ以上のことは何もわからなかった。亮は説明する。どこか寂しそうな背中で。
「あの夜…、お前が作ったおにぎりを包んでたラップ。食べ終わった後、なぜかポケットにしまったんだ。」
ぶっきらぼうな亮が言う。ぶっきらぼうに。
「それが俺の気持ちの証明に、ならないか…?」
凝視し固まる加波子。口も体も全く動かない。
「…やっぱりだめか。」
「違う、だめなんかじゃ…。」
亮は体を少しずつ加波子に向ける。そんな亮に加波子は必死に訴える。
「本当は、すごく嬉しいの!すごくすごく嬉しいの!泣きたいくらい嬉しいのに、なのに、涙が出ないの…。」
加波子から勢いが消える。意識が白くなってくる。
「あのニュースを見た時から、ずっと泣かないように我慢してきたから…。泣き方忘れちゃった…。こんな時、どうしたらいいんだっけ…。」
悲しい目をした加波子は体も呼吸も震え出す。亮は加波子の腕を掴む。
「おい。しっかりしろ。」
加波子には聞こえない。震え続けている。
「ねえ、どうしたらいい?私どうしたらいいの…?ねぇ…。」
加波子は亮の胸元に手を当てる。その手も震えていた。亮は強く加波子を抱きしめる。震えが止まるように強く。加波子の瞳は涙で潤んでいた。
「もういい。充分だ。もう何も我慢しなくていい。悪かった。」
その瞬間、加波子の瞳から大粒の涙がこぼれた。
加波子は泣き始める。大きな声を出して。まるで子供のように。その間、亮はずっと加波子を抱きしめていた。
「お前、体冷えてきた。入ろう。」
亮は加波子に布団をかける。ふたりで布団に入る。向かい合い、見つめ合う。加波子は呼ぶ。
「亮…?」
「なんだ?」
「久しぶりに言った、『亮』って。会いたくなるからずっと言わなかったの。」
亮は天井を向く。
「俺は、何も信じてねぇけど祈ったよ。11月21日。月が見えた。祈りなんてよくわかんねぇけど、祈ったんだ。」
亮は加波子のために祈っていた。ふたり同じ時に同じ月を見ていた。
「だから今まで私、持ちこたえられたんだ…。」
亮がいなくなった日から今日までの日々が、加波子の頭に走馬灯のように浮かんだ。
「亮、こっち見て。」
再びふたりは見つめ合う。
「…亮…。」
加波子は亮で満ち溢れていた。そして亮を欲する目。
ふたりは愛し合う。これ以上ないほど愛し合った。離れていた時間、それ以上を埋めるかのように。