誕生日翌日。加波子は手紙を投函してから出社する。決心する。
お昼。誰もいない会議室。初めて加波子は健に電話をする。緊張する加波子。すでに息が上がっている。健が電話に出る。
「もしもし。」
「もしもし加波子です、今お時間大丈夫ですか?」
「ああ…少しなら。どうしたの?」
「あの…。」
「なに?」
「あの、私好きな人がいるんです。」
突然の加波子からの電話。昨日告白をした相手。その加波子からの告白。しかし健は冷静だった。
「その人とうまくいってるの?」
「…遠い…所にいます。でも、私は彼を忘れたくないんです。」
「そんなの綺麗事だ。」
加波子は逆らう。
「違います!」
「だったら!今、君のそばにいて、君を守ってくれる人は誰だ!」
加波子は息を吸うが言葉が出ない。何も言えない。健は小さな呆れたため息をする。
「君は一度冷静になったほうがいい。…じゃあ仕事に戻るから…。」
電話は切れた。加波子の緊張の糸も切れた。言いたいことは言ったのに、言い返されてしまった。しかもそれは正論だった。加波子はその場で立ち尽くす。力が抜ける。無様だと思った。
会議室から出ると友江にぶつかる。加波子の様子がいつもと違うと感じた友江。
「あんた、こんな所で何してるの?探したわよ。さ、行こ行こ。」
喫茶室・ジョリン。
「ねえ、カナ。」
「はい。」
「私ね、」
「はい。」
「いい男見つけたの。」
「はい。」
「でね、」
「はい。」
「結婚することになったの。」
「はい。」
「嘘。」
「はい。」
「全部嘘。」
「はい。」
友江は加波子のあごを少し上げ、クイッと自分のほうに向ける。
「私の話聞いてた?」
「はい。」
「じゃあ私何て言った?」
「えっと。何でしたっけ。」
「あんた今、色っぽい。私が見てきた中で一番。あんたもそろそろ自分のこと考えなさい。」
「自分のこと?」
「自分の幸せよ。このままじゃ生涯独身、孤独な人生になるかもしれないわよ。」
「私はそうなっても構いません。」
友江はさらにあごを上げる。
「それを直しなさいって言ってるの。」
「…冷静になれ、ってことですか?」
「何よ、わかってるじゃない。」
友江はそっと手を離す。
「冷静って、どうすればなれるんですか…。」
「そうねー。あんたの場合、一度自分を客観視してみたらどう?自分をもうひとり作って、そのもうひとりを自分が眺めるの。難しいかもしれないけど…何か見えるんじゃないかしら?」
「客観視…。」
客観視。考えたこともない言葉だった。今自分は、自分に夢中なのか、亮に夢中なのか、どちらもなのか。何もわからなかった。
トイレにて。加波子はふと鏡を見た。鏡に映った自分を見つめる。
「えっと…私は…小さな会社でOLをしていて…小さなアパートで一人暮らしをしていて…興味のあるものは一応あって…友達は少ないけどいて…。昨日告白されたけど、それには応えられなくて…それで私は…。」
自分には何もないと思った。何も持っていないと。無力で無知、無能。鏡に映った自分に言う。
「最低…。」
そして、ふと首を横に傾けたその時。目に入ってしまった。首と襟の間。ネックレスのチェーン。そこから目が離せない。動かせない。首元が熱く感じる。加波子は自分を見つめることさえできなかった。
お昼。誰もいない会議室。初めて加波子は健に電話をする。緊張する加波子。すでに息が上がっている。健が電話に出る。
「もしもし。」
「もしもし加波子です、今お時間大丈夫ですか?」
「ああ…少しなら。どうしたの?」
「あの…。」
「なに?」
「あの、私好きな人がいるんです。」
突然の加波子からの電話。昨日告白をした相手。その加波子からの告白。しかし健は冷静だった。
「その人とうまくいってるの?」
「…遠い…所にいます。でも、私は彼を忘れたくないんです。」
「そんなの綺麗事だ。」
加波子は逆らう。
「違います!」
「だったら!今、君のそばにいて、君を守ってくれる人は誰だ!」
加波子は息を吸うが言葉が出ない。何も言えない。健は小さな呆れたため息をする。
「君は一度冷静になったほうがいい。…じゃあ仕事に戻るから…。」
電話は切れた。加波子の緊張の糸も切れた。言いたいことは言ったのに、言い返されてしまった。しかもそれは正論だった。加波子はその場で立ち尽くす。力が抜ける。無様だと思った。
会議室から出ると友江にぶつかる。加波子の様子がいつもと違うと感じた友江。
「あんた、こんな所で何してるの?探したわよ。さ、行こ行こ。」
喫茶室・ジョリン。
「ねえ、カナ。」
「はい。」
「私ね、」
「はい。」
「いい男見つけたの。」
「はい。」
「でね、」
「はい。」
「結婚することになったの。」
「はい。」
「嘘。」
「はい。」
「全部嘘。」
「はい。」
友江は加波子のあごを少し上げ、クイッと自分のほうに向ける。
「私の話聞いてた?」
「はい。」
「じゃあ私何て言った?」
「えっと。何でしたっけ。」
「あんた今、色っぽい。私が見てきた中で一番。あんたもそろそろ自分のこと考えなさい。」
「自分のこと?」
「自分の幸せよ。このままじゃ生涯独身、孤独な人生になるかもしれないわよ。」
「私はそうなっても構いません。」
友江はさらにあごを上げる。
「それを直しなさいって言ってるの。」
「…冷静になれ、ってことですか?」
「何よ、わかってるじゃない。」
友江はそっと手を離す。
「冷静って、どうすればなれるんですか…。」
「そうねー。あんたの場合、一度自分を客観視してみたらどう?自分をもうひとり作って、そのもうひとりを自分が眺めるの。難しいかもしれないけど…何か見えるんじゃないかしら?」
「客観視…。」
客観視。考えたこともない言葉だった。今自分は、自分に夢中なのか、亮に夢中なのか、どちらもなのか。何もわからなかった。
トイレにて。加波子はふと鏡を見た。鏡に映った自分を見つめる。
「えっと…私は…小さな会社でOLをしていて…小さなアパートで一人暮らしをしていて…興味のあるものは一応あって…友達は少ないけどいて…。昨日告白されたけど、それには応えられなくて…それで私は…。」
自分には何もないと思った。何も持っていないと。無力で無知、無能。鏡に映った自分に言う。
「最低…。」
そして、ふと首を横に傾けたその時。目に入ってしまった。首と襟の間。ネックレスのチェーン。そこから目が離せない。動かせない。首元が熱く感じる。加波子は自分を見つめることさえできなかった。