流星とジュネス

「君は僕がいなくちゃ何もできないお姫様だろう?」
「そんなことない……!」
「そんなことあるさ。少なくとも僕が知る君は、素直で、何でも僕の言うことを聞くいい子だった。君は幼馴染(フィアンセ)らしく、僕の隣で大人しくしていればいいんだ」

 確かに主人公である自分に対する執着心はやや強かったが、私の知っているヨリは優しくて面倒見が良く、まさに『近所のお兄ちゃん』と称するにふさわしい人物だった。後輩である水瀬くんが慕う様子からも、彼の人間性は充分に推し量ることができていたはずだ。

(それなのに)

 目の前の別人のような彼の表情に頭の中が混乱する。

 緊張感がぴんと張り巡らされた空間を断ち切るように、天井のスピーカーから呼び出し音が流れた。

『三年四組、久我依都君。生徒総会の資料を取りに、職員室まで来て下さい』

 私に顔を近付けたまま、ヨリは小さく舌打ちをする。
 そして次の瞬間ーー彼は優しい表情に戻った。

「君が聞き分けのいい子なら、ここで大人しく待ってるんだよ」

 いいね、と囁いた声が耳の奥にこびりつく。
 そのまま私の横をすり抜けて行った彼は、ドアを開けて廊下へ出て行った。