「こっちの数字がカッコでくくってあるでしょ。ゼロに当てはめてみたらAもBもおなじ数式が当てはまるから、この問題で等号が成立する式はこう」
「あー! そういうことか!」

 さらさらとヨリのシャープペンシルから導き出される最適解に感動の声を上げる。
 過ぎるスキンシップは困りものだが、噂に違わずヨリは極めて優秀な頭脳を持っているようだ。

「すごいね。私がずっと悩んでた問題も一瞬で解いちゃったよ」
「言われるほどでもないよ。でも、水瀬のテスト対策に付き合うこともあるから……」

 ねえ水瀬? と投げ掛けられ、デスクで作業をしていた水瀬くんが「そうですね」と顔を上げる。

「そう言えば、水瀬くんも生徒会のメンバーなの?」
「水瀬は生徒会の副会長だよ」
「えっ」

 意外な返答に思わず驚く。悪気がある訳ではなかったが、控えめな雰囲気はどちらかと言うと人前に立つことの多い副会長よりも会計や書記が似合いそうな印象を受ける。

「そうだったんだね。ちゃんと挨拶してなくてごめんなさい」

(ついでに副会長だと思わなかったことも)
 
 謝ると「貴方の話は会長から聞いていましたから」と、水瀬くんは表情を和らげた。

「お二人の邪魔はしませんので、ゆっくりして行ってください」

 高校二年生とは思い難い落ち着きようだ。生徒会長であるヨリがいる手前、あくまで黒子に徹するつもりのようだが、名前を持つところを見ると彼も物語に深く関わって来るような存在なのかもしれない。

(水瀬くんのことも、もっと知れたらいいな……)

 口元だけ緩められた彼の穏やかな表情を眺めながら、私は心の中で逡巡した。