「そう言えば、ヨリって頭良さそうだよね」

 厳しい校則が定められていないため、蒼遥高校では制服を思い思いに着崩す生徒も多い。風間くんはいつも派手な色の靴下を履いているし、織也くんはブランド物と思われるネクタイを合わせている。ルールがない中でも言われた通りに制服を着こなすヨリは、まさに優等生然とした佇まいだ。

「まあ、成績なら誰にも負けない自信はあるかな。この前の現代文の小テストも100点だったよ」
「え! すごい!」

 小テストの割に問題があまりにも難し過ぎるとクラスでも話題になったテストだ。私もしっかり復習をした後に臨んだつもりだったが、残念ながら彼の点数の半分程度しか取れなかった。

「もしかして、幼馴染(フィアンセ)は勉強が苦手?」
「まあ、得意が苦手かって聞かれたら、苦手って答えるよね……」

 ヨリは少しだけ肩をすくめて「そうだよね」と微笑む。そうだよねとは何だ。

「中間試験も近いし、そしたら僕が勉強教えてあげるよ。火曜日と木曜日なら活動がないから……放課後、生徒会室においで」
「あ、ありがとう」

 一方的に決まってしまったような気がするが、彼も『名前を持つ者』であるだけにこの世界や主人公である自分に重要な関わりを持つことは間違いないだろう。
 夏へ向けて時間が動く気配を予感しながら、私はヨリと共に校門をくぐった。