「二人ともお疲れ様!」

 閉会式が始まる直前までソフトボールの試合に出ていた二人は、試合が終了したついでにグラウンドの片付けを手伝っていた。
 試合で汚れたのか、きららちゃんの体操服は泥だらけだ。

「もー、三組との試合がこんなに白熱するとは思わなかったよ」

 顔をしかめながらも、きららちゃんはどこか楽しそうだ。隣に立つ太郎くんは、頬を赤らめつつ肩に下げていたトートバッグから畳まれたTシャツを差し出す。

「きららちゃん、僕着替え持って来てたから、その……自分ので良ければ使って」
「わ、ありがとー! 今着替えちゃおっと。ちゃんと洗って返すね」
「え?」

 まずい、そう思った時には既に手遅れだった。何の躊躇いもなく体操服のシャツを脱いだきららちゃんに、太郎くんの表情が一瞬で凍りつく。

「き、き……」

 隣で、風間くんのため息が聞こえる。

「きららちゃん、男の娘だったんだね……」
「え? きららは男だよ?」

 太郎くんの瞳から一筋の涙が流れる。
 そのまま彼は空中に弧を描きながら、静かに後ろへ倒れた。

「おい! 太郎!」

 口からぶくぶくと泡をふく太郎くんを慌てて風間くんが支える。

「太郎くん、きっと疲れちゃったんだね! みんなもお疲れ様っ」

 球技大会と共に一つの恋が終わる音もしたような気がするがーー
 青春の真っ只中を生きる彼らを眺めながら、私は心の中が澄み渡って行く感覚に身を委ねたのだった。