流星とジュネス

「滉平君、ちょっと良いかな」

 聴診器をぶら下げているところを見るに、旭くんの専属医か何かだろう。
 風間くんは私に「ごめん、ちょっと行ってくる」と言い残し、慌てて立ち上がると病室を出て行った。

「旭くん、お兄ちゃんと仲良しなんだね」

 残された病室で、私は旭くんに話しかける。「うん」と、彼はにっこり微笑んで頷く。

「僕のお兄ちゃんは優しいし運動神経も抜群だし、僕が持ってないもの、なんでも持っててかっこいいんだ。でもね――」

 そう言って、旭くんはくっきりとした縁取りの瞳を伏せた。

「僕、実はお兄ちゃんがスポーツやってるところを一回も見たことがないんだ」
「そうだったんだ……」
「ねえ、海羽ちゃん。こんなことお兄ちゃんに言われたら断られるに決まってるけど……僕、本当は球技大会を見に行きたいんだ。高校卒業しちゃう前に一回くらい、お兄ちゃんが活躍する姿が見てみたい」

 強い生命力を宿した瞳が、私に訴えかける。
 『あいつがグラウンドで輝く姿は、この世界で一番かっこいいのにな』。そう話していた太郎くんの言葉が蘇った。

「旭くん……」
「……やっぱり、駄目かな」

 小さなため息と共に、パジャマに覆われた薄い肩が落ちる。
 壁際の本棚の上には、兄の名前が彫られたメダルが飾られていた。