「難病の弟がいるんだよ。旭って言って、十歳離れてるんだけど……生まれた時からずっと病院暮らしで。所属してたユースチームも旭の世話があるからって、中学の時に脱退しちゃったんだよね」
「風間くんにそんな過去が……」
「だけど俺、この前滉平が担任の先生と話してるの、聞いちゃったんだよ。あいつに体育大学の推薦が届いてるらしくてさ。それも弟のために蹴ろうか悩んでるらしい」

 きららちゃんが「えー、もったいない」と眉をひそめる。

「体育大学なんて入りたくて入れる大学じゃないのにね!」
「うん。本人だって口にこそしないけどさ……もし弟が元気だったら、滉平だって迷わず承諾してたと思うよ」

 風間くんはスポーツが嫌いなんじゃない。
 心から愛しているからこそ、あえて自分から距離を置こうとしているのだ。

「滉平の将来を決めるのはもちろん滉平だ。そんなことは俺も分かりきっているけど……なんだかここで終わるのが悔しいんだ。サッカー部の試合でも体育の授業でも、滉平がチームに入ると一瞬で味方の空気が変わるんだよ。そんな滉平が誰かのために一番好きなものを諦めなきゃいけない現実が、俺は悔しい」

 膝の上に置いた拳を、太郎くんはぎゅっと握りしめた。

「あいつがグラウンドで輝く姿は、世界で一番かっこいいのにな」