「ほら! 本人もそう言ってくれてるし、太郎くんで決まりっ」

 呆気に取られて目配せをし合う私と織也くんをよそに、きららちゃんだけが上機嫌に両手を合わせた。

「ちょっと、本当に良いの……?」

 思わず小声で尋ねると、彼はゆっくりと頷く。

「俺、渡会や滉平とかと違ってモブとして作られた人間だからさ。君達が楽しい学校生活を送れるように、黒子として上手く立ち回れればそれでいいと思ってた。だけど……こうやって自分を自分として扱ってもらえるのって、こんなに幸せなことなんだね」

 恋は盲目。そんな言葉が脳内に浮かんだが――
 嬉しさを噛みしめるような太郎くんの表情に、私は何も言い返すことができなかった。