「……んで、どうしてここに連れて来るんだ」

 次の日の放課後、家庭科室へやって来た私と『彼』を前に、織也くんは露骨に顔をしかめる。
 形容し難い微妙な空気が流れる中、きららちゃんだけが「お客さんだ~!」と瞳を輝かせてはしゃいでいた。

「これには訳がありまして……って言うか、そもそも私は織也くんが手芸部だったことに驚きなんだけど」
「別に入りたくて入った訳じゃねえよ。俺、モデルの仕事で授業抜けることも多いだろ? だから別のところで内申点上げたくてさ。手芸部ならこの学校で一番ユルいし大した活動もしなくて済むから」
「あ! そう言うのすごい失礼!」

 憤慨したきららちゃんが、右手をグーにしてぽかっと織也くんの背中を叩く。

「いてっ……お前の腕力どうなってんだよ」

 一瞬で青ざめた彼の表情を見るに、どうやら見た目で騙されてはならないようだ。

「でも、私も手芸部が活動してるのは初めて見たな」
「確かにそうだね。きららも最近、放課後はバイトのヘルプを任されることが多かったから」

 将来デザイナーを目指していると言うきららちゃんは、駅前の雑貨屋でアルバイトをしている。いくらゆるい部活に所属しているとは言え、彼もなんやかんやで忙しそうだ。

「今日は久しぶりの活動だし、何をするかもまだ決めてなかったから海羽ちゃん達が遊びに来てくれて嬉しいよ。早速お茶入れるね」

 足取り軽く食器棚へ向かうきららちゃんを見て、「俺も手伝わねえと……」と織也くんも椅子から立ち上がる。
 二人が戻って来るまで立ちっぱなしでいる訳にも行かないため、私は隣にいた『彼』に声をかけた。

「じゃあ、私達は座って待ってよう」
「え? ああ、うん」
 
 私の声で彼は我に返り、椅子を引いて腰を下ろす。
 惚けたようにきららちゃんの後ろ姿を見つめる彼の頬は、恋をする乙女のように真っ赤だった。