(チーム分け、思ったより早く終わったな)

 放課後、トイレから教室へ戻ろうとすると体操服姿の風間くんとすれ違った。

「お。お疲れ」
「お疲れ様。風間くん、これから部活?」

 尋ねると、彼は「いや」と首を振った。

「俺、実は部活入ってないんだよ」
「え!? そうなの!?」

 驚きのあまり思わず声が裏返る。先刻行われた球技大会の話し合いで、彼はほぼ全ての団体競技戦への参加が決まったばかりだった。

「クラスの皆が風間くんのこと頼りにするから、てっきり運動部なのかと思ってたよ」
「まあ確かに運動は苦手じゃないんだけどさ。一つの部活に所属して三年間その競技に打ち込むって、なんか面倒臭いじゃん? だから俺は一年の頃からそれぞれの部活で頼まれたら人数合わせで試合に出て、ってそんな感じ」
「そうなんだ……」

 どこか腑に落ちない思いを抱えつつ、風間くんの話に相槌を打つ。
 今日一日風間くんの様子を視線で追っていたが、クラスや学年を越えて彼を慕う生徒はこの高校に非常に沢山いることが分かった。いつも大勢の友人に囲まれ、常に話題の中心にいる人気者。彼はそんな立ち位置の青年だ。

(そんな風間くんが、部活面倒臭いとか言っちゃうキャラなのかな)

 ぼんやり考えていた私は、背後から聞こえた「滉平!」という声で我に返る。
 振り返ると、先日織也くんを探していた時に声をかけてくれた男子生徒が私達の元へ走って来た。

「校庭でサッカーゴール組み立てるから手伝ってって」
「ああ。今行くよ」

 男子生徒は「あれ」と私を見て首を傾げる。

「君、この前三組の教室に来てたよね。あの後織也には会えた?」
「うん」
「そっか! なら良かった」
「じゃ、またな。有明さん」

 風間くんは朗らかな笑顔で手を振り、男子生徒と共に去って行った。