「遅刻!!」

 寝ぐせを直すのもままならない状態で鞄をひっつかみ、私は部屋を飛び出した。
 階段を駆け降りる音に気付き、ヒロミさんが驚いた表情でキッチンから顔を覗かせる。

「海羽ちゃん、学校行くならせめてトーストくらい持って行きなさい」
「えっ!?」

 直接手渡されたほかほかのトースト。これをどうしろと。
 いるいらないの押し問答を繰り返す余裕もなく、仕方なくトーストをくわえた私は寮を飛び出した。

(ちゃんといつも通りの時間に寝たはずなのに……!)

 今朝、目が覚めたら普段家を出る時刻の五分前で仰天したのだ。特段前日の晩に夜更かしをした訳でもなく、寝坊をした理由が全く思い当たらない。こう言う時、誰のせいでもないのに誰かのせいにしたくなるのが世の常だ。

 一人パン食い競争を繰り広げながら多くの生徒が利用する高校の通学路へと交わる大通りへ差し掛かった時、左手から全速力で駆けてくる男子高校生が視界に入る。

(あ、まずい!)

 そう思った時には既に手遅れで。

「フガッ!!」
「おわっ!?」

 私は彼と出会い頭に激しくぶつかった。