アムールゲームスによる乙女ゲーム作品『約束のエトワール』の世界に迷い込み、数日が経った。
 最初は夢だと信じたかったこの状況も、何日と続くと流石に受け入れざるを得なくなって来る訳で。

(横江さん、今頃どうしてるかな)

 私がいなければ彼女は一人で仕事をしなければならないだろうし、もしかしたら私の失踪を受けて警察沙汰になっているかもしれない。であればきっと、地方にある実家にも連絡が行っていることだろう。そんなことを考えると連絡の一つも寄越せないもどかしさに胃がきりきりと痛み出す。

(その癖こっちの生活は平和なのがニクいんだよね……)

 現実世界での生活を置き去りにして来た一方で、蒼遥高校三年生としての私の生活は恐ろしいほど穏やかに過ぎていた。日中は学校で授業を受け、放課後はきららちゃんとカフェテリアでおしゃべりをしたり、この世界のことを知るために町を探索したりしてから寮へ帰る。

 町を歩き回って学んだことをまとめると、まず『約束のエトワール』の舞台は『壱師(いちし)町』と呼ばれる町であることが分かった。壱師町は地方都市によくあるような町の作りをしていて、駅を中心に商店街のアーケードや広い公園などが点在している。都会と言えるまでに栄えている訳ではないものの、大抵の用事はこの町で事足りるような構造になっていた。