「織也くんはいいの?」
「いいって、何が?」
「その……私と結ばれなくて」
「はあ!?」
「そ、そう言う意味じゃなくて!!」

 露骨に顔をしかめた織也くんを前に、慌てて弁解する。

「乙女ゲームのハッピーエンドって、主人公と攻略対象の男の子が結ばれることだったよなあ、って思って……」

 アムールゲームスの作品である『シャルマン・アンジュ』について熱く語っていた横江さんの姿を思い出す。確か『シャルマン・アンジュ』は、芸能プロダクションでマネージャーとして働く主人公が、攻略対象である男性アイドル達と距離を縮めて行く物語だった。

『ただ仲良くなるだけじゃない。それぞれのキャラがそれぞれの悩みやトラウマを抱えていて、主人公とその苦しみを半分こしながら乗り越えて行く過程が最&高』

 そう、彼女は話していたのだ。
 もし織也くんにも、主人公との出会いを通して何か叶えたい願いがあったのだとしたら。
 自分のせいでその道が閉ざされてしまうのは、なんだか申し訳ない気もする。

「別にいいよ。つーか、普通に今の発言は自意識過剰」

 足元に咲く花を見つめ、口をつぐんでいると落ち着いた声が返って来た。顔を上げるとこちらを見つめる織也くんと目が合う。
 フェンスに背中を預け、夕陽に照らされる彼の姿は映画のワンシーンかと見紛うほどのオーラがあった。