そう言えば、担任の先生は自分の名前を名乗らなかった。他の生徒は既に知っていると仮定したとしても、転校して来た私に自身の名前を名乗らないのは今思い返すと違和感がある。その理由を考えるとしたら何だろう?

「簡単な話だよ。別にこの世界に限ったことじゃなくて、例えば小説や映画とかにも当てはまる話だと思うけど」
「ああ、もしかして『物語に関係があるか』ってこと?」

 確かに小説や映画には大勢の人間が登場するが、全員に名前が付けられている訳ではない。名前が与えられるか否かは、その人物が物語に深く関わるかどうかで決まるのではないか。
 私の答えに、織也くんは「まあ、大体合ってるな」と頷いた。

「もう少し分かりやすく言うと、主人公であるお前と今後深い関わりを持つかどうかで決まるんじゃないかと俺は思ってる。それにお前、さっき自分の口で言ってただろ? 『ここは乙女ゲームの中の世界だ』って。いくら主人公としてこの世界に来た訳じゃないとしても、これからこの町で生活するなら気を付けた方がいいんじゃねえの」
「え?」
「鈍い奴だな。お前を狙ってる奴なら俺以外にもいくらでもいるって話だよ」

 突然発された言葉に、不覚にもどきんと鼓動が高鳴る。

「しかもこの世界に初めて現れた主人公だからな。お前にその気がないなら、さっさと事情説明して納得してもらわないと後々厄介なことになるぞ」
「そうだね……ありがとう。気を付ける」

 頷き、ふと心に引っかかるものを感じて私は彼に尋ねる。