私が入社したハイクレックス株式会社は、主に電子部品を製造するメーカーだった。具体的に何を作っているかは入社一週間の私にはまだ分からないことの方が多かったが、研修期間中に見せられた企業紹介のビデオからだと、工作機械と言って金属や樹脂などの素材を加工するために必要な機械のパーツを作る会社らしい。
 兎にも角にも、この会社の本業が彼の言う乙女なんとかゲームとは全く関係ないことは、二十歳の自分でも十分に理解することができた。

(それで、入社早々そんなよく分からない部署に異動って……)

 この一週間あらん限りの企業知識や社会人として必要なビジネスマナーを詰め込まれ、多少なりとも地道に頑張ろうと意気込んでいた私にとってはまさに青天の霹靂だ。
 この展開に喜ぶことも悲しむこともできず、所在なく視線を泳がせていると「でも」と目の前の人事はわざと明るい声を出して見せた。

「この時代IT部門に強みがあるのは、会社としてもプラスになると思うんだよね。アムールゲームスもそんな会社だから社長がさ、社内から若手の女性を引き抜いたらどうかってことで有明さんが選ばれたんだよ。なんせ今年度入社で唯一の女性事務職だから」