端正な織也くんの顔をまじまじと見つめる。
 高校生にして、海外を飛び回って活動するファッションモデル。女子生徒からも人気が高いイケメンで、『主人公』である私とは登校初日に運命的な出会いを果たす――
 脳裏に横江さんの顔がちらついた。間違いない。乙女ゲームのルールに則るならば、彼は私の『攻略対象』だ。

「……エトワール」
「は?」
「ここ、『約束のエトワール』っていう乙女ゲームの中の世界なんだよね。多分私がこのゲームの主人公で、舞台はこの高校。きっと普通なら『主人公』は転校初日に織也くんと出会って、その……色々距離を縮めたりするんだと思う。でも私は普通じゃないの。ゲームを遊んでいたはずの私自身が、主人公としてこの世界に迷い込んでしまったから」

 私の話に、織也くんは驚いたように瞳を見開いた。

「……それ、お前は別の世界から来たって言いたいの?」
「うん。確かにここでの私は主人公としての役割を与えられているみたいだけど、本当の中身は違う。このゲームを偶然見つけて、遊んでみようと思った別の世界の人間なの。ゲームを起動させてる間に気付いたら寝ちゃってたみたいで、朝起きたらこの世界に」

 彼はしばらく言葉を失った後、「厄介なことになったな」と表情を曇らせて呟いた。

「確かにお前の言う通り、俺達は何者かによって作られた存在だ。それはここで暮らす誰もが理解してると思う」
「どうして皆はそのことを知ってるの?」
「お前が来るまで、この世界では『明日』が来なかったからだよ」
「明日?」