ドアを開けると、桜の花びらと共にふわりと春風が吹き込む。
 彼に連れて行かれたのは、校舎の屋上だった。

(すごい……ちゃんと整備されてるんだ)

 一般的には学校の屋上と言うと立入禁止になっていることが多い印象だが、蒼遥高校では学生向けに開放された庭園になっており、背丈の低い木々や花が植えられた空間の中にベンチやテーブルセットが置かれていた。自分達を覗いて誰もいない屋上は静かで、時折地上のグラウンドから部活に励む生徒の声が聞こえて来る。

「はい、ここ。座って」

 織也くんはベンチに腰かけ、空いたスペースをぽんぽんと叩く。言われるがままに私は彼の隣に腰を下ろした。

「今朝は危ないところを助けてくれてありがとう。あの時私も混乱してて……ちゃんとお礼言えてなかったなって思ったから」

 ささやかだけど食べて、と紙袋を織也くんに差し出す。袋の中身を覗いた彼は「うわ、ローストビーフサンドイッチじゃん」と瞳を輝かせた。

「良く分かったな。俺の好物」
「それが……東雲きららちゃんって子が教えてくれたの」
「あー、きららか。あいつと仲良くなったの?」
「うん。クラスで席が隣で。この高校のことも色々教えてくれたよ」
「ふーん。言っとくけどあいつ男だからな」
「へえ、そうなんだ」

 返事をした数秒後、思考回路がストップする。